2021 年 47 巻 2 号 p. 167-179
心的外傷後ストレス障害(PTSD)に対する認知行動療法の有効性が明らかにされている一方で、課題として生活の質(QOL)の評価や、より対象者の状態像に合わせた介入法の検討が不十分であることが指摘されている。本研究では、PTSDに対する認知行動療法がQOLに及ぼす効果について、単一事例を通して検討した。患者は、職場でのパワーハラスメント被害によってPTSDを発症した女性であった。休職せずにぎりぎりの状態で職業生活を維持しており、働きながらの治療を希望していた。介入は心理教育、リラクセーション、加害者との関係の振り返り、価値に沿った目標設定などから構成され、隔週から月1回のペースで計21回、およそ1年半にわたり実施した。結果、価値に沿った目標設定の直後から価値に沿った行動の拡大、顕著なQOLの向上がもたらされ、改善に至った。今後は本症例のように、過去のトラウマではなく現在のQOLに焦点を当てた介入のエビデンス蓄積が期待される。