認知行動療法研究
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47 巻, 2 号
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原著
  • 倉重 乾, 田中 恒彦
    2021 年 47 巻 2 号 p. 71-81
    発行日: 2021/05/31
    公開日: 2021/11/17
    [早期公開] 公開日: 2021/06/23
    ジャーナル フリー

    遠隔心理支援における一つの方法として、コンピュータ課題を用いて対象者の注意バイアスを修正するABMがある。ABMのオンライン実施は治療の均質性や実施の簡便さなど多くの利点をもっている。しかし、オンラインのABMについての包括的な分析は行われておらず、その治療効果は明らかとなっていない。本研究ではメタ分析の手法を用いてオンラインで実施されたABM研究を包括的に分析し、オンラインABMの全体的な有効性について評価した。オンラインでABMを実施した10報の文献を分析した結果、オンラインABMの群間効果量はg=−0.010で統計的に有意ではなかったものの、群内効果量はg=0.489と安定した治療効果を示した。治療効果に影響を与える要因として診断の有無、ABM手法、対象疾患を考慮したが、これらの要因は治療効果と関連していなかった。

  • 岡島 義, 秋冨 穣, 村上 紘士, 谷沢 典子, 梶山 征央
    2021 年 47 巻 2 号 p. 83-92
    発行日: 2021/05/31
    公開日: 2021/11/17
    [早期公開] 公開日: 2021/06/11
    ジャーナル フリー

    新型コロナウイルス感染症(COVID-19)禍では、睡眠の悪化が報告されている。しかしながら、海外と国内では感染対策が異なり(ロックダウンvs.外出自粛要請)、また、COVID-19流行後の調査しか行われておらず、流行前後の睡眠状態の比較を行った研究は報告されていない。本研究では、睡眠記録アプリ利用者6,963名のデータを用いて、2020年1~6月の睡眠状態について、2018年および2019年の同時期の睡眠データと比較し、COVID-19禍における睡眠変化について検討することを目的とした。対数線型モデルを用いて検討した結果、2020年4月、5月、6月時の睡眠時間が6時間未満の者の割合が、ほかの年と比べて少ないことが明らかとなった。そのほかの睡眠指標に関しては関連が認められなかった。以上のことから、COVID-19禍の活動自粛期間は、睡眠時間の延長をもたらすことが明らかとなった。

実践研究
  • 野田 航, 石塚 祐香, 石川 菜津美, 宮崎 優, 山本 淳一
    2021 年 47 巻 2 号 p. 93-105
    発行日: 2021/05/31
    公開日: 2021/11/17
    [早期公開] 公開日: 2021/06/21
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は、発達障害のある児童2名の漢字の読みに対して刺激ペアリング手続きによる遠隔地学習支援を実施し、その効果と社会的妥当性について検討することであった。事例Iにおいてはタブレット端末による刺激ペアリング手続きの教材を用いた自律的な学習をビデオ通話およびメールで遠隔地学習支援を行い、事例IIにおいてはビデオ通話を用いて教材提示から評価までをすべて遠隔で実施した。両事例とも、課題間多層プローブデザインを用いて介入効果を検証した結果、漢字単語の読みの正答率が向上した。また、対象児と保護者を対象に実施した社会的妥当性のインタビューから、本研究の遠隔地学習支援は高く評価されていた。一方で、事例Iにおいては介入効果の維持に一部課題が残った。介入効果を維持させるための介入手続きの改善、介入効果の般化の検討、介入実行度の検討など、今後の課題について考察した。

  • 永田 忍, 松本 一記, 関 陽一, 清水 栄司
    2021 年 47 巻 2 号 p. 107-117
    発行日: 2021/05/31
    公開日: 2021/11/17
    [早期公開] 公開日: 2021/06/17
    ジャーナル フリー

    パニック症は、再発性のパニック発作と予期不安に特徴づけられ、パニック発作への恐怖から日常生活に支障をきたす不安症である。パニック症の治療に関して、認知行動療法の有効性が確立されており、日本人を対象にした個人認知行動療法では、対面と遠隔で介入した場合の安全性と実用可能性が立証されている。本研究では、過敏性腸症候群が併存するパニック症の成人男性に対して、テレビ会議システムを用いた遠隔認知行動療法を、毎週1セッション50分連続16週間実施した治療経過を報告する。介入前後には、パニック症と過敏性腸症候群の症状が顕著に改善し、治療終結後12カ月時点でも治療効果が維持されていた。本症例の結果は、テレビ会議システムを用いた遠隔認知行動療法は、対面での実施と同様に、パニック症を治療可能で、過敏性腸症候群を併存している場合にも有効であることを示唆している。

展望
  • 大井 瞳, 中島 俊, 宮崎 友里, 井上 真里, 堀越 勝
    2021 年 47 巻 2 号 p. 119-126
    発行日: 2021/05/31
    公開日: 2021/11/17
    [早期公開] 公開日: 2021/06/17
    ジャーナル フリー

    国連サミットで掲げられた持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)の保健分野においてはあらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進することが目標に掲げられている。SDGsで重視されている「誰一人取り残さない」という点においては、遠隔での認知行動療法(Cognitive Behavior Therapy: CBT)が有効な手段となりうる。遠隔CBTは、感染症の拡大、セラピストの不足といった理由で対面のCBTを受けることが困難な場合にもCBTの提供が可能となる手段である。一方で、遠隔CBTが主流となることによって、心理療法提供の適用から外れてしまう人、すなわち、取り残される人が生じるおそれがある。本稿では、遠隔CBTの適用が難しいケースとその支援について、(1)デジタルデバイド、(2)クライエントの病態や障害、(3)緊急対応、の3点から述べた。遠隔CBTの役割と限界を認識したうえで、「誰一人取り残さない」よう心理的援助を提供することの重要性が示唆された。

  • 村中 誠司, 竹林 由武
    2021 年 47 巻 2 号 p. 127-138
    発行日: 2021/05/31
    公開日: 2021/11/17
    [早期公開] 公開日: 2021/06/17
    ジャーナル フリー

    本研究では、本邦における遠隔心理支援研究の方向性を明らかにするために、Structural Topic Model(STM)で論文のアブストラクトを解析して海外の遠隔支援研究に関するトピックを抽出した。遠隔心理支援は情報技術などを活用した支援形態であり、電話やテレビ会議システム、テキストメッセージなどさまざまな形で提供されている。遠隔支援は自宅からでも支援サービスが受けられる点で有用であるが、対面支援と比較した遠隔支援の有効性は未だ不明瞭である。遠隔心理支援サービスの拡充を有効に進めるために、まずは遠隔支援に関する検討課題の整理が求められる。遠隔支援に関する578件の論文のアブストラクトをSTMで解析し、ワードクラウドとトピックの出現確率とその経年変化を確認した。その結果、モバイルアプリを活用したうつや不安への支援に関する検討が優先され、その他支援者へのサポートや予防的介入の必要性が示された。

資料
  • 熊野 宏昭, 富田 望, 仁田 雄介, 小口 真奈, 南出 歩美, 内田 太朗, 武井 友紀, 榎本 ことみ, 梅津 千佳
    2021 年 47 巻 2 号 p. 139-151
    発行日: 2021/05/31
    公開日: 2021/11/17
    [早期公開] 公開日: 2021/06/25
    ジャーナル フリー

    パンデミック下の心療内科プライマリーケア施設において、遠隔認知行動療法を導入したプロセスについて報告する。対面カウンセリングからの移行に要した期間は1カ月余と比較的短期間であったが、これには留意点をまとめた文献と使い慣れたWeb会議ツールZoomの活用が有用であった。6カ月弱で22例が導入され、延べ92回のカウンセリングが実施されたが、診断、支援技法の内訳は対面時と同様であった。中断ケースはなく、昨年度の同時期よりも継続率は高かった。患者の満足度は昨年度と変わらず、主担当・副担当から見た支援の質では、デメリットよりもメリットに関する報告が多かった。修士課程1年生の陪席実習の結果では、同席して直接体験することによる効果は非常に大きく、今後の臨床実習の新しい形としても注目すべきであると思われた。

  • 田中 佑樹, 嶋田 洋徳, 岡島 義, 石井 美穂, 野村 和孝
    2021 年 47 巻 2 号 p. 153-165
    発行日: 2021/05/31
    公開日: 2021/11/17
    [早期公開] 公開日: 2021/06/17
    ジャーナル フリー

    本研究においては、ユーザーからの入力データに基づく自動化された個別フィードバックによって、ストレッサーに応じたコーピングの実行と睡眠の質の改善を促すストレスマネジメントのためのスマートフォンアプリケーションを開発し、労働者を対象としてその有効性を検討することを目的とした。効果検証は、コーピングレパートリー、睡眠の質、心理的ストレス反応を指標として、アプリケーション群、ワークシート群、個別面接群の3群における介入前後の比較が行われた。計63名分のデータを分析した結果、コーピングレパートリーおよび心理的ストレス反応には、アプリケーション群とほかの2群の間に有意な効果の差異は見られなかったものの、睡眠の質は、むしろ個別面接群のみにおいて有意な改善が認められた。したがって、開発されたスマートフォンアプリケーションのコンテンツには改良の余地が残されていることが示唆され、今後の展望に関して考察された。

実践研究
  • 今北 哲平, 竹田 伸也, 田治米 佳世
    2021 年 47 巻 2 号 p. 167-179
    発行日: 2021/05/31
    公開日: 2021/11/17
    ジャーナル フリー

    心的外傷後ストレス障害(PTSD)に対する認知行動療法の有効性が明らかにされている一方で、課題として生活の質(QOL)の評価や、より対象者の状態像に合わせた介入法の検討が不十分であることが指摘されている。本研究では、PTSDに対する認知行動療法がQOLに及ぼす効果について、単一事例を通して検討した。患者は、職場でのパワーハラスメント被害によってPTSDを発症した女性であった。休職せずにぎりぎりの状態で職業生活を維持しており、働きながらの治療を希望していた。介入は心理教育、リラクセーション、加害者との関係の振り返り、価値に沿った目標設定などから構成され、隔週から月1回のペースで計21回、およそ1年半にわたり実施した。結果、価値に沿った目標設定の直後から価値に沿った行動の拡大、顕著なQOLの向上がもたらされ、改善に至った。今後は本症例のように、過去のトラウマではなく現在のQOLに焦点を当てた介入のエビデンス蓄積が期待される。

  • 高山 智史, 佐藤 寛
    2021 年 47 巻 2 号 p. 181-192
    発行日: 2021/05/31
    公開日: 2021/11/17
    ジャーナル フリー

    本研究は、後方倒立回転とび(以下、後転とび)に及ぼすビデオを用いた行動的コーチングの効果を、体操競技の初心者である4名の中学生を対象とした参加者間多層ベースライン法に基づいて検討した。独立変数は、介入I期としてビデオフィードバック、介入II期としてビデオモデリングとビデオフィードバックであった。従属変数は、7項目の下位スキルに課題分析された後転とびの正反応数であった。この結果、後転とびの正反応数は、介入I期では3名、介入II期では2名において高まり、フォローアップでも高い正反応数が維持された。また社会的妥当性において、指導手続きは概ね良好と判断され、第三者の演技評価はベースライン期、介入I期、介入II期にかけて高くなった。これらからビデオを用いた行動的コーチングは、体操競技の初心者に対する後転とびの指導法として有効であることが示唆された。

  • 戸澤 杏奈, 土屋 政雄, 土井 卓人, 木浦 佑輝
    2021 年 47 巻 2 号 p. 193-202
    発行日: 2021/05/31
    公開日: 2021/11/17
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は、アクセプタンス&コミットメント・セラピーに基づく管理職向け集団プログラムの効果を検討することであった。管理職58名に対して、1回90分の全3セッションから構成される集団プログラムを実施した。ベイズ的アプローチにより、主要評価項目として組織単位の仕事のパフォーマンスの前後比較を行ったところ、分析対象となった18組織においてパフォーマンスの向上は見られず、仮説を支持しなかった(EAP(expected a posteriori)推定値=−0.19[95%最高密度区間−0.53, 0.17])。一方、プロセス指標として管理職個人の心理的非柔軟性を補足的に示したところ、分析対象となった27名において心理的非柔軟性の低下の傾向が見られ、確信区間に0を含むものの、仮説の方向を支持した(EAP推定値=−1.02[95%確信区間−2.11, 0.09])。また、副次的評価項目では組織単位の周囲のサポート、個人のリーダーシップ行動の増加の可能性が示された。

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