殺人加害のために少年刑務所入所後、措置入院となった患者の行動範囲拡大を支援した事例について報告する。患者は「殺人衝動」を訴えて保護室外での対人接触を拒否しており、目標共有が難航していた。また、対人ストレスにさらされた際の反応として、攻撃的・侮蔑的な思考の生起が報告されていた。そこでセッション内介入として、殺人衝動に関する非建設的な議論を避けつつ価値の明確化を行った。そのうえで、衝動の負担感およびストレスの主観的強度を数値化し、セルフモニタリングを共有することで、ハイリスク状況を可視化・予防しつつ行動範囲を拡大できた。対人場面への暴露の体験は「人を殺してしまう」という確信の強度を弱める行動実験の機会として作用したものと考えられる。さらに、認知的コーピングや負担感の報告、援助要請といった行動レパートリーが拡大した結果、攻撃的スクリプトの代替行動が形成されたものと推測される。