生物教育
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研究資料
高校生物教科書における「真核生物の誕生」に関する内容ならびに「3ドメイン説」との関連付けに関する調査
武村 政春
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2015 年 55 巻 3-4 号 p. 149-159

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抄録

真核生物の誕生は,進化史上最も重要な出来事の一つである.しかしながら,高校生物の教科書におけるその記述は,共生説の紹介,原核生物と真核生物の単純な比較などにとどまり,真核生物の誕生がその後の生物進化に与えた影響など,重要な点が欠如しているなどの問題があると考えられる.そこで本研究では,旧課程「生物I」「生物Ⅱ」ならびに現行課程「生物基礎」「生物」の教科書に掲載された「真核生物の誕生」の内容,ならびにその「3ドメイン説」との関連付けに関する調査を行い,上記問題への解決法を見出すことを目的とした.旧課程の高校生物教科書では,「生物I」→「生物Ⅱ」の順で詳細な内容が扱われ,そのすべてにおいてミトコンドリアと葉緑体の起源に関する共生説が扱われていたが,核の起源に関しては「細胞膜の陥入」程度の記述しか見られなかった.現行課程の高校生物の教科書では,そのすべてにおいて共生説が扱われており,とりわけ旧課程「生物I」ではコラム的に取り扱われていたのに対し,現行課程「生物基礎」では本文において詳細に扱われていた.また現行課程では,教科書により「生物基礎」と「生物」のどちらで「真核生物の誕生」を詳細に扱うかが異なっていることがわかった.現行課程の「生物」では3ドメイン説が詳しく扱われるようになったが,3ドメイン説と密接に関係するはずの「真核生物の誕生」とは別の章で取り扱われており,大部分の教科書で両者は完全に切り離されていた.これらのことから,次の学習指導要領の改訂では,3ドメイン説との関係も見直した上で,教科書記述を再検討することが望ましい.また「真核生物の誕生」に関する教材研究は国内外を通してもほとんど行われておらず,新たな視点での教材開発が期待される.

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© 2015 一般社団法人 日本生物教育学会
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