生物教育
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研究資料
高校生物における花器官ABCモデルの取り扱い方について
中川 繭高橋 香穂理
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2019 年 60 巻 2 号 p. 50-57

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抄録

花器官ABCモデルは,被子植物の花が外側からがく片,花弁,雄しべ,雌しべ(心皮)の順に4種類の器官が並ぶ仕組みを遺伝子レベルで明快に説明する簡潔かつ大変美しい仮説である.シロイヌナズナのホメオティック変異を起こした花の変異体の解析により,3つの遺伝子グループ(クラスA, B, C)の発現の組み合わせによって4種の花器官の形成が決まることを示したこの仮説は,2009年の高等学校学習指導要領改訂後,すべての高等学校理科「生物」の教科書で取り上げられている.しかし,多くの教科書で遺伝子領域と形成される花器官のモデル図と変異体の花の構造図や写真に相違が見られたことから,ABCモデルが植物の発生と遺伝子の働きについての例として適切に説明されているか疑問が生じた.そこで,教科書および副読本においてABCモデルがどのように説明されているかについて,被子植物の花の構造と同心円領域の概念,3つの基本ルールの記載,遺伝子領域と花器官の形成についてのモデル図と花の構造図に注目して調査した.その結果,すべての教科書で遺伝子の機能領域と形成される花器官を示すモデル図が記載されているが,その仮説の構築に使われたクラスA, B, C遺伝子の欠損体花の構造図として示されている図の多くが実際の花と異なっていることがわかった.これは主に,ABCモデルは3つの基本ルールによって成り立つことが理解されていない,特にクラスC遺伝子が花の有限性の維持に働くことが認識されていないこと,シロイヌナズナの雌しべは2枚の心皮が合着していることが説明されていないことの2点が原因と推測された.そこで,今後ABCモデルを高校生物で取り上げるのであれば,被子植物の花器官が同心円状に存在し,外側からがく片,花弁,雄しべ,心皮が形成されること,雌しべは心皮が融合または合着したものであることを説明した上で,クラスA, B, C遺伝子の欠損体の表現型(実験結果)からモデル(仮説)を構築し検証する観察実験,またはモデルを踏まえた思考実験として変異体の表現型を示すことを提案する.

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© 2019 一般社団法人 日本生物教育学会
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