生物教育
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研究資料
花器官形成に働くクラスA, B, C遺伝子が欠損したシロイヌナズナ変異体の花式図の作成
中川 繭高橋 香穂理
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2019 年 60 巻 2 号 p. 58-65

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抄録

花器官ABCモデルは花器官がホメオティック変異を起こしたシロイヌナズナとキンギョソウの変異体の表現型の解析から提唱された,被子植物の花を構成する4つの花器官(がく片,花弁,雄しべ,心皮)の形成が3つの遺伝子グループによって制御されるという仮説である.花芽分裂組織を同心円状に4つの領域に分け(外側から領域1,2,3,4とする),花器官を形成する3つの遺伝子グループが隣接する2つの同心円領域で働くとする.領域1と2で働く遺伝子をクラスA遺伝子,領域2と3で働く遺伝子をクラスB遺伝子,領域3と4で働く遺伝子をクラスC遺伝子とし,クラスA遺伝子のみが働くとがく片が形成され,クラスA遺伝子とクラスB遺伝子が働くと花弁が,クラスB遺伝子とクラスC遺伝子が働くと雄しべが,クラスC遺伝子のみが働くと心皮が形成される.また,クラスA遺伝子とクラスC遺伝子は互いの働きを抑制し,クラスC遺伝子は花の有限性の維持にも働く.

2009年の高等学校学習指導要領に対応したすべての高校生物の教科書でABCモデルは取り上げられ,仮説の理解を助けることを目的としてクラスA, B, C遺伝子が欠損した変異体の花の構造図が掲載されている.これらの花の構造図は花の縦断面図と花式図と呼ばれる横断面図の両方が取り入られている.仮説を提唱した論文には変異体花の縦断面図が記載されているが,花式図は適切な資料が存在しない.しかし,変異体の表現型から仮説の構築を試みる観察実験の材料としてABCモデルを用いる場合,縦断面図より花式図の方が描きやすく,花の同心円領域の把握も容易である.そこで,観察実験の手引きとなることを目的としてシロイヌナズナのクラスA, B, C遺伝子の機能が欠損した変異体と二重三重変異体の花式図を作成した.さらに,シロイヌナズナの結果を踏まえ,思考実験の材料として概念的な5弁花1心皮花のクラスA, B, C遺伝子の機能欠損体の花式図の作成を試みた.

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© 2019 一般社団法人 日本生物教育学会
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