2020 年 62 巻 1 号 p. 12-22
近年の生物多様性の保全の動向の高まりにより,企業は生物多様性の社員教育を推進することが明確に求められるようになった.企業は都市圏への集中が進んでいる.また,近年都市では企業が緑地を整備する事例が出てきており,生物への配慮など質にも配慮した緑地では,緑地認証を取得する事例が出てきた.こうした緑地は,企業にとって身近な場所に立地し,生物への配慮等が第三者によって評価された場所といえる.緑地認証の取得状況を調査した結果,三大都市圏の6都府県(東京都,埼玉県・千葉県・神奈川県,愛知県,大阪府)ではその取得事例が多く,事例数は増加傾向にあった.これは,これらの都府県はグローバル化に伴い,海外で認証が入居者募集等に利用されていることなどの影響を受けているためと考えられる.東京都心において,企業緑地での動植物の観察,建物の屋上での養蜂体験を試行した結果,いずれも参加者の9割前後が「大変よい」または「よい」と回答したが,観察できる生物が少ない可能性があるなどの課題も明らかになった.都市圏で質の点にも配慮された企業緑地が増加すれば,都市の生物多様性の向上に寄与する可能性があるほか,生物多様性の教育を実施できる場が増加し,企業による生物多様性の教育への活用につながる可能性がある.またこれによって,広く生物多様性の重要性が認識され,生物多様性に配慮した企業緑地が増加するといった,スパイラルアップの効果が期待される.