2023 年 64 巻 2 号 p. 147-152
マイクロピペットは生命科学領域の研究で一般的に使われる計量器具である.その容量はマイクロリットル単位のため計量器具として他の実験に使用することも可能である.近年,高等学校において大腸菌の遺伝子組み換え実験や電気泳動などの基礎的な分子生物学実験が実施されるようになった.これに伴いマイクロピペットの導入が進められている.また,マイクロピペットの詳細な扱い方が教科書や資料集に掲載されている.マイクロピペットは1本あたり5000~10000円程度と比較的安価ではあるが,クラス人数分を準備するには数十万円を要する.マイクロピペット以外にマイクロリットル単位での液体を計量しうる器具にはシリンジが挙げられる.例えばテルモ社の1 mLツベルクリン用シリンジの最小目盛は0.01 ml(10 μL)である.そこで本研究では,マイクロピペットの代わりにツベルクリン用シリンジをマイクロリットル単位の計量器具として使用する方法を検討した.その結果,シリンジによる計量は1メモリ分の補正をすることでマイクロピペットの計量と有意差がなく使用できることがわかった.シリンジは1本あたり20~30円であるため,マイクロピペットの代替品としてコストパフォーマンスの優れた器具になるだろう.