生物教育
Online ISSN : 2434-1916
Print ISSN : 0287-119X
64 巻, 2 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
研究論文
  • ―小学校生物領域における学びの構成と問いの比較を通して―
    手代木 英明, Erkki T. Lassila, 鈴木 誠
    2023 年 64 巻 2 号 p. 82-93
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/10
    ジャーナル フリー

    本研究は,日本とフィンランドの小学校理科(生活科を含む)教科書における生物分野(生命科学領域)について,その特徴を比較分析したものである.まず,先行研究に基づき,両国の教科書の各単元(章)にある「問い」を13観点から抽出し,問いに対する「解」の内容を4カテゴリーに分類した.また,両国の教科書に記載されている学習内容,特に生物の種や自然環境に関する内容を抽出し,それぞれ比較分析を行った.

    その結果,両国では小学校生物教育の方法や自然環境へのアプローチについて大きな違いがあるだけでなく,明確な解を求める「問い」が多い日本の教科書に対して,フィンランドは,「なぜ・どうして?」といった疑問に対するオープンエンドな問いが多いことが明らかになった.

    これは,フィンランドが「多様性のある解」や「個人の経験や知識に基づく解」を重視するものと考えられ,国が目指す7つのキーコンピテンシーとも一致する.今後,日本におけるコンピテンス基盤型生物教育を考える上で,大きな示唆を含むものと考えられる.

  • ―「生命」と「生物」の捉え方の分析―
    金本 吉泰, 鈴木 誠
    2023 年 64 巻 2 号 p. 94-102
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/10
    ジャーナル フリー

    教育基本法第二条には「生命を尊び,自然を大切にし,環境の保全に寄与する態度を養うこと」と定められている.これを受け,学習指導要領においても「生命を尊重する態度」の育成が図られている.本研究では,高等学校における「生命の尊重」の扱いを明らかにするために,平成30年に告示された高等学校学習指導要領における生命の尊重に対する記述を調査した.また,高校生の「生命」の捉え方を明らかにするために,公立高等学校の生徒553名を対象として,「生命」と「生物」とは何かという問に対して自由記述で回答する質問紙調査を行った.その結果,理科における生命の尊重と他教科における生命の尊重ではその対象に違いが見られること,高校生は生物概念と生命概念を明確に区別できているわけではないこと,生命観の下位概念として先行研究で示されていた「機械論」「客観的知識」「アニミズム」「擬人化」「生気論」「価値」「命」といった概念が高校生に備わっていること,が確認された.また,高校生の生命観については,例えば「死」や「平等性」といった下位概念を付け加えて考えていく必要性が示された.

  • ―植物の種子散布形質を題材として―
    田川 一希
    2023 年 64 巻 2 号 p. 103-121
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/10
    ジャーナル フリー

    進化のしくみに関する代表的な誤概念として,目的論的な進化観と用不用の進化観がある.本研究では,これらの誤概念を修正し,進化のしくみに対する正しい理解を獲得させることを目的として,実際の生命現象を題材としたハンズ・オン教材を開発した.この教材では,風で種子を散布する植物の散布器官(冠毛など)が海洋島において衰退する適応進化をテーマとして取り上げ,突然変異と自然淘汰による進化の過程をモデルを用いて再現した.大学生を対象に教材を用いた授業実践を行い,進化に関するテスト問題の正答率を実践前後で比較した.その結果,誤概念の修正を含む進化の定義に関するテストの得点は,実践前後で有意に上昇した.また,生物の形質の進化を突然変異と自然淘汰の観点から説明する学生の割合は,実践前後で有意に高くなった.しかし,目的論・用不用に関する誤概念の修正は限定的であった.また「自然淘汰は偶然に生じる」という誤概念を保有する学生の割合が高くなった.これらの課題を解決し本教材の教育効果を高めるには,構造化された探究やコンピューターシミュレーションの導入が効果的かもしれない.

  • 東海林 拓郎
    2023 年 64 巻 2 号 p. 122-132
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/10
    ジャーナル フリー

    「生物基礎」の免疫分野は,実験教材の不足などを理由に「教えづらい分野」の一つとして知られている.本研究は,「生物基礎」において,実験を伴わずに免疫システム(体液性免疫と細胞性免疫)を学ぶことができる教材の開発と評価を目的とした.開発教材は,免疫システムの各プロセスがイラストで描かれたものであり,生徒はペアとなってGoogle Jamboard上でこれらを並べ替え,その結果をクラス内で発表した.知識の定着や意欲・態度を測るためのアンケートを実施し,開発教材を用いずに講義形式で学習したクラスと比較した.開発教材で学習した生徒は主体的に授業へ参加できており,理解の程度は,講座形式で学習した生徒のスコアより高かった.これらの実施効果は,アニメのキャラクターを用いた教材やGoogle Jamboard上での並べ替えによって導かれたと考えられた.一方で,イラストの意図の解釈に苦慮する生徒への対応などの課題も見られた.

研究報告
  • 枦 勝, 小島 桂
    2023 年 64 巻 2 号 p. 133-139
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/10
    ジャーナル フリー

    遺伝子組換え技術を用いてGFPの遺伝子を取り込んだカイコの乾繭を高等学校の授業に活用した実験が開発されつつあるが,高温で煮繭し繰糸を行うと,蛍光タンパク質が熱によって変性してしまう.その変性を防ぎつつ,短い授業時間で生徒がGFP繭を繰糸するのは未だに困難であった.このような背景から,短い授業内でも実施でき,高温にさらすこともない新しい繰糸方法の開発を目指し,検討を行った.その結果,重曹ON法によって,繭の中に液体が入り,繰糸するのに絶妙な状態になっていることを発見した.本法を用いてGFP繭を処理し繰糸したところ,GFP繭の蛍光を失うことなく繰糸できた.そこで,教育実践として高校3年生に実施したところ,重曹ON法によるGFP繭の繰糸は,生徒による成功率が高かった.本法は,短い授業時間でも実施でき,絹などについて興味を持つ教材となることが分かった.

研究資料
  • 伊藤 靖夫, 矢口 紘史, 小山 茂喜
    2023 年 64 巻 2 号 p. 140-146
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/10
    ジャーナル フリー

    遺伝の学習時に実際に交配を行い,後代の形質を観察することによって,遺伝子の伝達と形質が決まる仕組みを考えることは,学習指導要領で求められている科学的な探究という点でも望ましい.本研究では,1950年代以降モデル生物種とされている糸状菌Aspergillus nidulansの変異体を利用して,中学校での遺伝の学習と並行して実施可能な交配について検討を行った.栄養要求性と無性胞子に蓄積する色素の変異体を用いることで,黄系統と白系統を親として交配を行い,緑の後代を得た.標準的な方法をもとに作業や培養条件等を検討した結果,30°Cで培養した場合,4回の作業と観察を行い,最短14日間で交配を経た後代を得ることができた.系統の扱いの問題や,恒温機等の設備や培養後のオートクレーブによる滅菌が必要なことから,大学等の機関との連携が前提となるものの,生育の早さや新しい形質の出現から生徒の驚きを誘起し,それを遺伝への関心につなげることができるという点で,教材の選択肢としての可能性が示された.

  • 西川 洋史
    2023 年 64 巻 2 号 p. 147-152
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/10
    ジャーナル フリー

    マイクロピペットは生命科学領域の研究で一般的に使われる計量器具である.その容量はマイクロリットル単位のため計量器具として他の実験に使用することも可能である.近年,高等学校において大腸菌の遺伝子組み換え実験や電気泳動などの基礎的な分子生物学実験が実施されるようになった.これに伴いマイクロピペットの導入が進められている.また,マイクロピペットの詳細な扱い方が教科書や資料集に掲載されている.マイクロピペットは1本あたり5000~10000円程度と比較的安価ではあるが,クラス人数分を準備するには数十万円を要する.マイクロピペット以外にマイクロリットル単位での液体を計量しうる器具にはシリンジが挙げられる.例えばテルモ社の1 mLツベルクリン用シリンジの最小目盛は0.01 ml(10 μL)である.そこで本研究では,マイクロピペットの代わりにツベルクリン用シリンジをマイクロリットル単位の計量器具として使用する方法を検討した.その結果,シリンジによる計量は1メモリ分の補正をすることでマイクロピペットの計量と有意差がなく使用できることがわかった.シリンジは1本あたり20~30円であるため,マイクロピペットの代替品としてコストパフォーマンスの優れた器具になるだろう.

feedback
Top