2023 年 64 巻 2 号 p. 140-146
遺伝の学習時に実際に交配を行い,後代の形質を観察することによって,遺伝子の伝達と形質が決まる仕組みを考えることは,学習指導要領で求められている科学的な探究という点でも望ましい.本研究では,1950年代以降モデル生物種とされている糸状菌Aspergillus nidulansの変異体を利用して,中学校での遺伝の学習と並行して実施可能な交配について検討を行った.栄養要求性と無性胞子に蓄積する色素の変異体を用いることで,黄系統と白系統を親として交配を行い,緑の後代を得た.標準的な方法をもとに作業や培養条件等を検討した結果,30°Cで培養した場合,4回の作業と観察を行い,最短14日間で交配を経た後代を得ることができた.系統の扱いの問題や,恒温機等の設備や培養後のオートクレーブによる滅菌が必要なことから,大学等の機関との連携が前提となるものの,生育の早さや新しい形質の出現から生徒の驚きを誘起し,それを遺伝への関心につなげることができるという点で,教材の選択肢としての可能性が示された.