本研究では、労働者を対象に、これまで身体活動の規定要因とされてきた、運動実施に対する自己効力感、結果予期、ソーシャルサポート、環境的要因、および、労働者に特有の要因である仕事のストレッサー、ストレス反応、職場のサポートが、余暇時の身体活動の規定要因となり得るかを検討することを目的とした。労働者302名(男性146名、女性156名、平均年齢42.7歳、SD = 11.4)を対象に、質問紙による横断調査を実施した。余暇時の身体活動量の指標は、国際標準化身体活動質問票(International Physical Activity Questionnaire:IPAQ)の日本語版尺度の短縮版を用いた。共分散構造分析による分析の結果、自己効力感、運動に対する恩恵(Pros)と負担(Cons)、ソーシャルサポート、環境的要因、仕事のストレッサー、心理的ストレス反応を用いたモデルが構築された。自己効力感、およびProsとConsは、環境的要因、ソーシャルサポート、仕事のストレッサーといった要因と余暇時の身体活動量との関連を媒介した。なかでも自己効力感と余暇時の身体活動量との間に比較的強い関連が認められた。また、環境的要因は余暇時の身体活動量との直接的な関連も認められた。仕事のストレッサーから喚起される心理的ストレス反応は、Prosと負の関連、Consと正の関連が認められた。しかし、仕事のストレッサーは、自己効力感やProsとの間に正の関連が認められた。以上のことから、環境的要因やソーシャルサポートといった要因が、Prosや自己効力感を高め、Consを低めることで、余暇時の身体活動を促進する可能性が示唆された。また、仕事のストレッサーは、ストレス反応を高めることで余暇時の身体活動を低める可能性がある一方で、仕事のストレッサーに対するコーピングとして、余暇時の身体活動を高める効果も持つ可能性があることが示唆された。
厚生労働省1)は、身体活動(生活活動・運動) に取り組むことで、身体的健康、およびメンタルヘルスに対して様々な恩恵が得られることを指摘している。一方で、身体活動の不足は、これらを損なう危険因子となるため、適度な身体活動を多くの人が実行できるような対策、介入が必要とされている。身体活動を促進させるためには、身体活動を規定する要因、および身体活動が生起するメカニズムを明らかにした上で、身体活動の生起に有効な要因へアプローチすることが必要である。先行研究からは、運動実施に対する自己効力感、運動に対する結果予期2)といった個人内の要因や、他者からのソーシャルサポート33 >)、個人を取り巻く環境4)といった個人外の要因が挙げられている。これらのうち、1つのみの要因が直接的に身体活動を促進させる効果は、それほど大きくないことが、メタ分析から明らかとなっている5, 6)。また、身体活動を規定する要因間の関連の強さや方向、媒介、調整といった効果の検討は、未だ十分でない。そのため、数多く存在する身体活動の規定要因が、どのように関連し、身体活動に結びつくかといった知見を蓄積したうえで、複数の要因にアプローチできる身体活動促進プログラムを構築していくことが必要であると考えられる。
身体活動を規定する複数の要因と、身体活動の関連を総合的に検討した先行研究からは、環境的要因や他者からのサポートが、個人の身体活動に対する認知を介して身体活動に影響することが示唆されている7,8,9)。しかし、研究によっては、環境やサポートの直接的関連や、環境と心理的要因の交互作用を示唆したものも認められる10,11,12,13)。日本では、Ishii et al.14)、岡ら15)が、日本人成人を対象とし、環境的要因、ソーシャルサポート、心理的要因を用いた構造方程式モデリングによって、外的要因が心理的要因、特に自己効力感を介して身体活動を規定する可能性を示している。
成人のうち、労働者が自発的に行う余暇時の身体活動を促進することも大きな課題となっており、労働者を対象とした介入研究は既に数多く行われている2)。労働者の身体活動の促進によって健康が保持増進されることは、医療に関する企業側の出費を軽減することができるため、経済的なコストの削減にもつながることが期待されている16)。しかし、先行研究では、日本の労働者を対象として余暇時の身体活動の規定要因と余暇時の身体活動との関係を総合的に検討したものが認められていないため、労働者を対象とした研究が必要であると考えられる。また、労働者の場合、先行研究では測定されていない、労働者に特有の要因が、余暇時の身体活動に影響している可能性があるため、その要因を特定し、労働者の余暇時の身体活動の促進に有効なアプローチを見出すことが必要であると考えられる。
労働者の余暇時の身体活動に影響を及ぼす要因としてまず考えられるのは、職場によって規定される仕事のストレッサー、およびそれによって生じるストレス反応である17, 18)。仕事の量的・質的な負担が増加することによって、自発的に身体活動をとることに負担を感じたり、余暇時の身体活動のための時間が物理的に制限されたりする可能性が考えられる。また、疲労感などのストレス反応が原因となって、余暇時の身体活動を行うことを阻害する可能性が考えられる。加えて、同僚や上司など、職場の人々からのソーシャルサポートを考慮することも必要である。成人の身体活動の促進に対して特に重要であるサポートは、家族や友人から提供されるサポートであるとされている3)。しかし、特に労働者の場合は、職場の人々からのサポートも考慮することが重要となる19)。
以上から本研究では、労働者が仕事以外で自発的に行う余暇時の身体活動の規定要因を明らかにすること、およびその要因と余暇時の身体活動との総合的な関連を明らかにすることを目的とする。労働者に特有の要因としては、仕事のストレッサー、ストレス反応、職場のサポートを測定する。
2012年6月から9月にかけて、49ヶ所の事業所を対象として質問紙調査を行った。1事業所あたりの配布人数は3名~50名であり、全部で501名に配布した。留置調査法を用い、質問紙と合わせて返送用の封筒を配布した。調査にあたって、質問紙の表紙に、回答は無記名によって行われること、質問紙への回答は任意であり、回答の途中であっても、回答の拒否、中止ができること、調査によって得られたデータは統計的に処理され、個人のプライバシーを侵害することはないことを教示し、参加者の質問紙への回答、および質問紙の返送によって、調査への同意があったものとみなすことを記した。なお、本研究のプロトコルについては広島大学大学院教育学研究科倫理審査委員会の承認を受けた。配布した501名のうち、期日までに回答があったものは365名であった(回収率72.9%)。さらにそこから、データに欠損のあった55名、現在けがや病気で運動ができない状態にあると回答した8名を除いた302名(男性146名、女性156名、平均年齢42.7歳、SD = 11.4)を最終的な分析対象者とした。
2. 調査項目本研究では、余暇時の身体活動量に関する指標、運動実施に対する自己効力感(自己効力感)、運動に対する恩恵(Pros)と負担(Cons)、家族・友人からのソーシャルサポート(家族・友人のサポート)、環境的要因を測定した。また、以上に加えて、仕事のストレッサー、ストレス反応、職場の人々からのソーシャルサポート(職場のサポート)についても測定した。
(1)余暇時の身体活動量余暇時の身体活動量の指標には、村瀬ら20)の国際標準化身体活動質問票(International Physical Activity Questionnaire:IPAQ)の日本語版尺度の短縮版を用いた。IPAQは、平均的な1週間における、身体活動を行う日数および時間から、身体活動量を算出するものである。IPAQ日本語版尺度は、村瀬ら20)によって信頼性と妥当性が確かめられている。運動強度の単位は、身体活動の強度を意味する代謝当量(Metabolic equivalents: Mets)とした。そして、IPAQの各項目に設定された身体活動の強度(Mets)に、身体活動を行った日数と時間を掛け合わせたものを合計し、平均的な1週間の身体活動量を算出した(Mets・min / week)。なお、参加者には、IPAQへの回答の際に「仕事としての運動を含めない」ことを教示として加えた。これは、本研究では労働者が仕事以外で自発的に行う余暇時の身体活動の規定要因を明らかとすることを目的としたためである。肉体労働に従事している労働者などの場合、仕事の内容として義務的に行われ、本人の意思とは関係なく実践される身体活動についての回答を含む可能性がある。そのため、このような教示を行った。
(2)自己効力感、Pros、Cons、家族・友人のサポート自己効力感は、岡21)の尺度を使用した。本尺度は、運動行動を実施することに対する自己効力感を測定するために作成された尺度である。項目は、「少し疲れているときでも、運動する自信がある」など4項目からなる。評定は「全くそう思わない」(1)から「かなりそう思う」(5)の5件法で行った。なお、本尺度は、岡21)によって、1因子構造の信頼性と妥当性が確認されている。
ProsとConsは、岡ら22)の尺度を使用した。本尺度は、意思決定のバランスの要因に基づいて作成された尺度である。意思決定のバランスとは、行動を変容することに伴う種々の恩恵(Pros)と負担(Cons)に対する評価のバランスのことを指している22)。項目は、Pros、Consそれぞれ10項目からなり、Prosは「定期的に運動をすると、ぐっすり眠ることができる」、Consは「定期的に運動すると、時間が無駄になる」などの項目を含む。評定は5件法で行った。本尺度も、岡ら22)によって、Pros、Consともに1因子構造の信頼性と妥当性が確認されている。
家族・友人のサポートは、板倉ら3)の尺度を使用した。本尺度は、参加者の家族や友人から得られる、運動実施に伴うサポートを測定するものである。「家族や友人は、運動のやり方について、アドバイスや指導をしてくれる」など、5項目からなり、5件法で評定した。こちらも、板倉ら3)によって信頼性と妥当性が確かめられている。
(3)環境的要因環境的要因は、岡ら15)を参考に、参加者の周囲の環境を尋ねる尺度を使用した。本尺度は、岡ら23)によるものである。本尺度は、「自宅の近所には、運動をするための場所や施設(遊歩道、公園、フィットネスクラブなど)がある」など、全5項目からなり、「全くそう思わない」(1)から「かなりそう思う」(4)の4件法で評定した。本尺度も、岡ら15)において信頼性と妥当性が確認されている。
(4)仕事のストレッサー、ストレス反応、職場のサポート仕事のストレッサーとストレス反応は、下光ら24)の職業性ストレス簡易調査票を使用した。本研究では、ストレッサー項目のうち、仕事の量的負担、仕事の質的負担、身体的負担の計7項目を、ストレス反応のうち、心理的ストレス反応である活気、イライラ感、疲労感、不安感、抑うつ感、および身体的ストレス反応である身体愁訴の計29項目を使用した。いずれの項目においても、「ちがう」(1)から「そうだ」(4)の4件法により評定した。
職場のサポートの測定には、本研究で家族・友人のサポートを測定するために使用した尺度3)の「家族や友人」の部分を、「職場の人々」に改変した5項目を尺度として使用した。評定は、家族・友人のサポートと同様に5件法で行った。
(5)人口統計学的変数人口統計学的変数として、参加者の年齢、性別、身長、体重、現在結婚しているかどうか、家庭に子どもがいるかどうか、雇用形態、勤務形態、職種、業種、事業所規模、1週間あたりの労働時間、現在けがや病気で運動ができない状態かどうかを尋ねた。
3. 分析方法共分散構造分析によるモデルの構築を行った。モデルの構成には、余暇時の身体活動量、自己効力感、Pros、Cons、家族・友人のサポート、環境的要因、仕事のストレッサー、およびストレス反応を用い、それぞれの要因が別の要因へ与える関連の方向と強さを検討した。モデルのあてはまりの良さを示す適合度の指標には、Goodness of Fit Index(GFI)、Adjusted Goodness of Fit Index(AGFI)、Root Mean Square Error of Approximation(RMSEA)を用いた。モデルの採用は、モデルの適合度が良好であること、パス係数が有意であることを条件として行った。なお、全ての統計解析には、SPSS version 20およびAmos version 20を使用した。
参加者のBody Mass Index(BMI)の平均値は22.2(SD = 2.9)で、一般的に標準といわれる値であった。参加者のうち70.2%は現在結婚しており、52.6%は家庭に子どもがいた。雇用・勤務形態については、正社員が81.1%、常日勤労働者が92.7%と多かった。事業所規模については、300~999人が最も多く(17.2%)、30~49人が最も少なかった(8.3%)が、いずれの規模についても幅広く分布していた。労働時間については、1週間に35~40時間の者が25.5%と最も多かった。職種については、専門・技術・研究職が38.1%と最も多く、ついで事務職(23.8%)、営業・サービス職(16.6%)、管理職(13.9%)が多かった。業種については、医療・福祉業が26.8%と最も多く、ついで製造・建設・運輸業の第二次産業従事者(18.2%)、金融・保険業(14.9%)、サービス業(9.9%)と続いた。
2. 共分散構造分析による労働者の余暇時の身体活動モデルの構築共分散構造分析を行った結果をFig. 1に示した。なお、最初のモデル構成では、身体的ストレス反応、および職場のサポートもモデルの構成に使用したが、余暇時の身体活動量、およびその他の変数に対して有意な関連を持たず、余暇時の身体活動の予測には適さないと判断した。従って、これらの変数はモデルの構成から除外した。

Result of structural equation modeling using leisure-time physical activity, self-efficacy, pros, cons, social support from family and friends, job stressors, and psychological stress reactions. GFI = 0.989, AGFI = 0.966, RMSEA = 0.023. All paths are significant (p<0.05). All effects are standardized.
まず、環境的要因やサポート、仕事のストレッサーといった個人外の要因が、自己効力感などの個人の心理的要因を媒介して身体活動量と関連するという先行研究の結果7,8,9,14,15)から、環境的要因、家族・友人のサポート、仕事のストレッサーを外生変数、その他の要因を内生変数として設定した。環境的要因からは、自己効力感、Pros、Cons、へのパスをそれぞれ設定した。家族・友人のサポートからは、自己効力感、Pros、Consの3要因へパスを設定した。ProsとConsは誤差間に相関を仮定し、それぞれから自己効力感へのパスを設定した。そして、余暇時の身体活動量へのパスは、自己効力感からのみ設定した。また、ストレス理論にもとづき、仕事のストレッサーからは、心理的ストレス反応へのパスを仮定し、心理的ストレス反応からは、自己効力感、Pros、Consへのパスを仮定した。
次に、パス係数と修正指標を基準としてモデルの改良を行った。はじめに仮定したパスのうち、パス係数が5%水準で有意でないパスを削除した。また、修正指標を参考に、環境的要因から家族・友人のサポートへのパス、環境的要因から余暇時の身体活動量へのパス、家族・友人のサポートから心理的ストレス反応へのパス、仕事のストレッサーからPros、および自己効力感へのパスを引いた。その結果、全てのパス、および相関が5%水準で有意となり、適合度も良好な値を示した(GFI = 0.989、AGFI = 0.966、RMSEA = 0.023)。
余暇時の身体活動量へのパスについては、自己効力感からのパスが最も強く(0.31)、環境的要因からも直接有意なパスが引かれた(0.12)。また、自己効力感へのパスについては、Consからの負のパスが最も強く(−0.58)、仕事のストレッサー(0.12)、Pros(0.13)からは正のパスが引かれ、家族・友人のサポートからのパスは有意でなかった。Consへは、心理的ストレス反応が最も強い関連を示し(0.29)、環境的要因(−0.21)、家族・友人のサポート(−0.16)も有意なパスを有していた。仕事のストレッサーは、自己効力感へのパス以外に、Prosへの正のパス(0.24)と、心理的ストレス反応への正のパス(0.22)が有意であった。また、心理的ストレス反応は、Consへのパスのほか、Prosへの負のパス(−0.12)が有意であった。
本研究の目的は、労働者が仕事以外で自発的に行う余暇時の身体活動の規定要因を明らかにすること、およびその要因と余暇時の身体活動との総合的な関連を明らかにすることであった。共分散構造分析の結果、環境的要因、家族・友人のサポートは、個人の自己効力感、Pros、Consを媒介して余暇時の身体活動と関連する可能性が示唆された。また、環境的要因については、余暇時の身体活動との直接的な関連も認められた。
余暇時の身体活動量には、個人の心理的要因である自己効力感が最も強い関連を持ち、自己効力感にはProsよりもConsが強く関連していた。これは、日本における先行研究14, 15)とも一致する結果であり、自己効力感は、余暇時の身体活動の直接の規定要因となると考えられる。労働者においても、自己効力感をいかに高めるかが、余暇時の身体活動の促進には重要であるといえる。また、労働者が余暇時に身体活動を実施する上では、身体活動の恩恵を意識しても実際の行動には結びつきにくく、身体活動の負担を認知しにくくすることが、余暇時の身体活動量の増加に関連すると考えられる。従って、労働者の余暇時の身体活動に対する自己効力感を高めるためには、Consを軽減することも重要となるだろう。
自己効力感、Pros、Consと関連を示した要因のうち、環境的要因は、余暇時の身体活動量への直接有意なパスも認められた。これは、環境的要因の直接効果を示唆した理論4)や研究11, 12)と一致する結果であった。本研究で測定した環境的要因は、家庭にある運動用具や、近隣の運動施設の有無などの項目を含んでいた。岡ら15)は、こうした環境が整っていることで、身体活動による恩恵が認知されやすくなる一方で、負担が認知されにくくなり、運動を実施する自己効力感の増加につながることを示唆しているが、労働者においては、環境的要因が直接的に余暇時の身体活動を高める効果も見込めることが示唆された。職場において1日の時間の多くを過ごす労働者は、時間的制約が多いことが指摘されている25)。そのため、非就労者に比べ、少ない余暇時間の中で効率的に身体活動を行うには、周囲が身体活動を行うことに適した環境であることが必要であると考えられる。
労働者に特有の要因では、仕事のストレッサーと心理的ストレス反応が他の要因と有意な関連を示した。心理的ストレス反応は、Prosと負の関連、およびConsと正の関連を持ち、それぞれを介して余暇時の身体活動量と負の関連を示した。しかし、仕事のストレッサーは、心理的ストレス反応を介して余暇時の身体活動量と負の関連を持つ一方で、Pros、自己効力感を介して余暇時の身体活動量と正の関連も持っていた。この結果は、先行研究17,18)とは異なるものであった。この結果の解釈には、コーピングとしての身体活動を考慮することが有用であると考えられる。つまり、仕事のストレッサーが、ストレス発散のための余暇時の身体活動の必要性を喚起させ、その恩恵(Pros)、および、自己効力感を高めている可能性である。余暇時の身体活動は、ストレス対処のための代表的な方法として挙げられ26)、ストレス反応を低減させる効果があることもこれまでの研究27)から確かめられている。従って、仕事のストレッサーの増加によるストレスフルな状況は、余暇時の身体活動の必要性を高く認識させる役割を担っている可能性がある。一方で、心理的なストレス反応は、Prosを低め、Consを高めることで、余暇時に身体活動をすることへの負担を増加させる効果を持つ可能性がある。余暇時の身体活動を阻害するのは、ストレスフルな状況そのものではなく、そこから生じるストレス反応であることが示唆された。
職場のサポートは、余暇時の身体活動量と有意な関連を持たなかった。板倉ら3)が示唆するように、他者からのサポートは、労働者であっても家族・友人のサポートが有用であるかもしれない。例えば、歩いて通勤するといった身体活動であれば、車で通勤するよりも時間がかかる。そのため、出勤時間を早める必要があり、家族の理解も必要となるかもしれない。労働者が行う余暇時の身体活動についても、家族・友人のサポートは不可欠であると考えられる。また、本研究では、仕事以外における自発的な余暇時の身体活動を取り上げたため、仕事としての身体活動を回答に含めないよう教示を行った。しかし、これによって、例えば職場の同僚と行う運動や、通勤時の運動など、仕事に関連して行われる意図的な身体活動についての回答が得られなかった可能性が考えられる。また、職場において労働者の余暇時の身体活動を促進するためには、同僚や上司などからのサポートではなく、身体活動プログラムの実施や身体活動への支援を行う制度など、職場全体の「環境」によるサポートが必要である可能性がある。本研究ではこれらの要因は測定できなかったため、今後の詳細な検討が必要であると考えられる。
本研究の限界としては、以下のことが挙げられる。第一に余暇時の身体活動量の指標に関する問題が挙げられる。本研究では、IPAQの教示に、仕事としての運動は含めないよう回答する旨を記した。その理由は、本研究における目的が、仕事として行う身体活動以外で自発的に行う余暇時の身体活動のみを取り上げることであったためである。しかしながら、この教示では仕事以外の身体活動を十分に測定できていない可能性も示唆される。例えば、徒歩通勤や自転車通勤などを、仕事に関連した身体活動であると認識して、回答に含めなかった参加者がいる可能性がある。今後は、通勤時の身体活動や、休憩中の身体活動は含めることなどを教示として明示することが必要である。また、加速度計や歩数計などの客観的指標を用いて身体活動量を測定することも必要である。
第二に、結果の一般化可能性の問題が挙げられる。本研究は、様々な職種・業種・地域の労働者を対象としているとはいえ、全ての職種・業種から標本を得られてはおらず、地域特性も偏ったものとなっている。従って、本研究の結果を日本全体の労働者に一般化することはできない可能性がある。
第三に、詳細な環境的要因、人口統計学的要因といった要因をモデルに含めていない点が挙げられる。本研究において環境的要因については測定しているものの、用いた尺度は先行研究28, 29)と比較すれば、詳細な情報が含まれていたとは言い難い。また、先述のように、環境的要因の中でも「職場」の環境的要因について考慮する必要があると考えられる。本研究で測定したサポート以外の要因として、職場の身体活動に対する評価の制度や、身体活動プログラムを実施しているかどうかなど、職場の身体活動に対する取り組みによっては、身体活動も大きく異なることが予想できる。この点についても、今後検討していく必要があると考えられる。
第四に、調査が横断調査であったことが挙げられる。本研究で構成されたモデルのパスの方向は、横断調査のためにその因果関係まで言及することができず、考察において述べたメカニズムは仮説の域を出ないものである。今後は、縦断調査や実験的研究といった研究デザインを用いることで、変数間の因果関係などを詳細に検討していく必要がある。