抄録
本研究では、仕事に関する積極的態度であるワーカホリズムとワーク・エンゲイジメントが、それぞれリカバリー経験(就業中のストレスフルな体験によって消費された心理社会的資源を元の水準に回復させるための活動)とどのような関連を有しているのか、 日本の労働者を対象として明らかにすることを目的とした。ワーカホリズム、ワーク・エンゲイジメント、リカバリー経験に関する各質問項目を含むインターネット調査を、調査会社である株式会社マクロミルの登録モニタを対象に行った(調査期間:2010年10月)。登録モニタから、性別、年代、居住地域が人口統計比率に合うように無作為抽出された13,564名の労働者に対して研究協力の案内が送付された。本研究では回答期間内に回答した先着2,520名を解析対象とした(男性1,257名、女性1,263名:平均年齢44.4歳、SD = 12.9)。分析は、各構成概念(ワーカホリズム、ワーク・エンゲイジメント、リカバリー経験)間の関連を明らかにするため、共分散構造分析を実施した。共分散構造分析の結果、ワーカホリズムとワーク・エンゲイジメントとは、弱い正の相関を有していた。また、ワーカホリズムは4つのリカバリー経験(心理的距離、リラックス、熟達、コントロール)と負の関連を有し、ワーク・エンゲイジメントは3つのリカバリー経験(リラックス、熟達、コントロール)と正の関連を有することが明らかになった。これらの結果は、ワーカホリズムはリカバリー経験を抑制するのに対して、ワーク・エンゲイジメントはリカバリー経験を促進することを示唆している。ワーカホリズムとワーク・エンゲイジメントは仕事に対して多くのエネルギーを費やす点では共通しているものの、リカバリー経験との関連については、それぞれ異なる影響を有することが考えられる。