行動医学研究
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原著
日本語版Short Interpersonal Reactions Inventoryの心理測定的信頼性と妥当性
永野 純須藤 信行久保 千春古野 純典
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2001 年 7 巻 2 号 p. 104-116

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抄録
Grossarth-MaticekとEysenckは、対人関係のパターンに基づいたパーソナリティ類型論と、これによって分類されるタイプ1からタイプ6までの6つの類型と疾病との関連を一連の疫学研究を通して示してきた。タイプ1は理想化した対象への依存型、タイプ2は迫害対象への執着型、タイプ3は対象への両価的態度型、タイプ4は精神的自立型、タイプ5は非感情的対処型、タイプ6は反社会型である。このうち、タイプ1はがん、タイプ2は心筋梗塞にそれぞれ特に親和的であり、タイプ5もある程度がん親和的であるとしている。一方、タイプ4は健康的であり、タイプ3およびタイプ6もがんや心筋梗塞に罹りにくいとしている。Short Interpersonal Reactions Inventory (以下SIRI) はこのパーソナリティ類型を判定するための簡易型質問票として開発された。タイプ4に対応した質問が20項目、これ以上の5類型に対応した質問が10項目ずつの合計70項目からなり、各質問に対して、「はい」、「いいえ」の二者択一で回答させる。各類型ごとの尺度得点を算出し、最高点の類型を被検者のパーソナリティとして分類する。本研究の目的は日本語版SIRIの信頼性と妥当性を検討することである。
ある検診施設の受診者に日本語版SIRIおよびEysenckのMaudsley Personality Inventory (MPI) への回答を依頼し、601人 (男性322人、女性279人、大半が年齢40~69歳) から協力を得た。6つのパーソナリティ類型にそれぞれ対応した下位尺度 (以下類型尺度) のアルファ係数は、タイプ3とタイプ6を除いて0.6以上であり、再検査信頼性係数はタイプ6以外は0.6以上であった。類型尺度とMPIの外向性 (E)、神経症性 (N)、虚偽性 (L) の各尺度との相関分析の結果は、過去の他の研究結果と同様のパターンであった。すなわち、タイプ1、2、3、および6はいずれもNと中等度以上の正相関を示したが、タイプ1と2がEと負相関したのに対して、タイプ3と6はEと無相関であった。一方、タイプ4はNとは負の、Eとは正の相関があり、タイプ1および2とは対照的であった。また、タイプ5はE、Nとも明らかな相関がなく、Lと中等度の正相関があった。SIRI全項目を用いた因子分析 (主成分法、バリマックス回転) によって9因子が抽出され、それぞれに対応した下位尺度を新たに構成した (以下因子尺度)。これらを、「コントロール感の欠如」、「感情抑圧」、「対象への両価性」、「不愉快な障害の存在」、「合理的対処」、「反社会傾向」、「精神的自立」、「利己主義」、および「対人要求のせっかちさ」と呼ぶことにした。SIRIの類型尺度と因子尺度との相関分析の結果は、概ねGrossarth-Maticek理論と合致するものであった。興味深いことに、コントロール感の欠如はタイプ1およびタイプ2の両方と強い正相関を示し、タイプ4とは負相関していた。このことは、この概念が様々な疾患への親和性に共通した「有害」成分である可能性を示唆するものと思われた。SIRIを用いたGrossarth-Maticek6類型への分類の結果では、日本人におけるタイプ2の分布は極めて少数であった。日本語版SIRIは、今後の疫学および臨床研究において応用可能と考えられた。
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© 2001 日本行動医学会
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