抄録
本研究の目的は、ディストラクションが痛みに及ぼす効果を、注意の限界容量モデルと反応予期仮説の観点から検討することであった。実験参加者30名は、High-Distraction(HD)群、 Low-Distraction(LD)群、統制群の3群に無作為に分けられ、10℃の冷水に48秒間手を浸す課題を合計3回行った。第2、3試行で、HD群には、3秒に1題のペースで3つの1桁の数値の加算が要求される課題、 LD群には6秒に1題のペースで偶数・奇数の判断を行う課題にそれぞれ取り組むことが要求された。統制群は、課題を要求されなかった。ディストラクションが痛みの体験に及ぼす効果を検討したところ、ディストラクション課題への集中度が主観的痛みと主観的不快感に影響を与え、不快感の予期得点が主観的不快感に影響を与えていた。しかし、課題の難易度についての評価は、主観的痛み、および主観的不快感いずれに対しても影響していなかった。