文化人類学
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論文
SNSで紡がれる集合的なオートエスノグラフィ
香港のタンザニア人を事例として
小川 さやか
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2019 年 84 巻 2 号 p. 172-190

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抄録

インターネットとスマートフォンが普及し、人類学者が調査している社会の成員みずからが様々な情報を発信するようになった。本稿では、香港在住のタンザニア人と彼らの友人や顧客などが複数のSNSに投稿した記事や「つぶやき」、写真、動画、音楽、絵文字などの多様な発信を「オートエスノグラフィ」の「断片」とみなし、断片と断片が交錯して紡ぎだされる自己/自社会の物語を「彼らのオートエスノグラフィ」と捉え、その特徴を明らかにする。香港のタンザニア人たちは、SNSを利用して商品情報や買い手情報を共有し、アフリカ諸国の人々と直接的につながり、オークションを展開する仕組みを形成している。彼らはそこで一時的な信用を立ち上げ、多数の顧客と取引するために、好ましい自己イメージにつながりうる断片的情報を投稿する。彼らが投稿した多種多様な断片的な情報は、他のユーザーとの間で共有されることによって価値を持つ。また異なる媒体に投稿された断片的な情報は、インターネット上で他者の欲望や願望と交錯し、偶発的に継ぎはぎされ、いまだ実現していない個人の可能性を示す物語となっていく。本稿ではこのような形で生成する被調査者の多声的なオートエスノグラフィの特徴について認知資本主義論を手がかりにして明らかにする。それを通じて人類学者によるエスノグラフィの特徴を逆照射し、ICTを活用したエスノグラフィの新たな方法を模索することを目的とする。

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2019 日本文化人類学会
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