文化人類学
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特集 オートエスノグラフィで拓く感情と歴史
〈沈黙〉が架橋する
弔いの人類学とケアし合うオートエスノグラフィへむけて
石原 真衣
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2022 年 87 巻 2 号 p. 206-223

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抄録

2016年7月11日、私は北海道大学アイヌ納骨堂で、初めてアイヌの死者——アイヌ遺骨——と出会った。そのとき、私は死者から呼びかけられ、振り向いた。本論では、アイヌの出自を持ちながらコミュニティや歴史性に接続できない一方で、日本社会において人種的他者および人種資本として可視化される「私」の身体経験から、なぜアイヌの子孫である「私」がこれまで遺骨を遺棄し、忘却し、取り残してきたのかについて、その社会的背景および構造についてオートエスノグラフィを記述し、思索する。そこには、いまだ思考されていないわれわれの近現代と現在の社会構造が浮かび上がるだろう。アイヌの血を引くという事実を除けば多数派日本人として生きてきた私は、3度の人種化のプロセスを経て、アイヌとして当事者化されてきた。2020年に上梓したオートエスノグラフィは、その後、「非場所」的に様々な当事者の〈沈黙〉を架橋してきた。本論では、オートエスノグラフィのその後について描写し、様々な「私」同士や「私」と死者たちをつなぐ回復の道として、また、接続の作法としてのオートエスノグラフィの可能性を提示したい。

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2022 日本文化人類学会
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