本稿の目的は、景観の生産に関わる文化人類学者と地球科学(地質学)者の協働と対話を通じて、ユニークな物質的特性を備えた山村景観の動態を理解するための気づきを得ることにある。そのために「手に負えない景観(feral landscape)」論を手がかりにしつつ、それぞれ異なる時間スケールや情報に焦点をあてる地球科学(地質学)と文化人類学の協働に基づく景観史/誌の記述をおこなう。そうすることで「国家からの逃避地」や「過去」に見えるような現代日本の山村景観が、国家や産業資本主義的な諸力や地域住民の外密的な働きかけの連関によって生み出された、国家やグローバルな資本主義と結びついた「未来」の景観であることを明らかにする。具体的には徳島県西部の山村景観が①地球のプレート運動という大地の時間、②近世以降の山村での葉タバコ生産というプランテーションの時間、③崩れ続ける大地に反復的な働きかけを続ける日常的な実践の時間が絡まり合うなかで生成されてきた動態を記述する。