文化人類学
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表紙等
原著論文
  • ペルーの現代料理レストランにおける「新しい料理」の創造と「おいしさ」の探究
    藤田 周
    2023 年 88 巻 2 号 p. 195-214
    発行日: 2023/09/30
    公開日: 2023/12/29
    ジャーナル 認証あり

    本論は新たな料理がどのように創造されるかという問いに対して、ペルーの現代料理レストランにおける料理の試作の過程、特に素材や調理法が組み合わされる過程について、「おいしさ」の探究という観点から検討することで、取り組む。現代料理とはレストランの位置する場所の自然と文化の前衛的な解釈を試みる料理のスタイルであり、ペルーの現代料理レストラン、セントラルでは日々新しい料理を生み出そうと試作が行われている。新しい料理がどのように作られるかという問いについては、これまで食の人類学が検討してきた。そこでは基本的に、新たな食材などについて、それをそれぞれの食文化におけるおいしさのルールに基づいて調理することで新しい料理が生まれるという考え方があった。だが、新しい料理を作る過程そのものについては検討が不十分であった。そこで本論は、新しいものを作る過程を考察してきた創造の人類学に目を向ける。その検討からは(1)創造の過程はブリコラージュ的なものとして断片的に例示されてきたが、その過程の全体は実際にはどのようなものか、(2)料理を作る上でおいしさは重要なルールをなすが、食材の性質に応じながらおいしさを実現するような即興とはどのような過程か、という2つの具体的な問いを考える必要が浮かび上がる。本論はセントラルの試作の過程に対する民族誌的調査から、これらの問いに答えることを目指す。

  • ウルシと人間の間に生じる「重要な他者性」
    鈴木 和歌奈
    2023 年 88 巻 2 号 p. 215-229
    発行日: 2023/09/30
    公開日: 2023/12/29
    ジャーナル 認証あり

    本論文の目的は、ウルシと人間の間に「重要な他者性」が生じることを、文化人類学とフェミニズム科学論の理論に依拠しながら描くことである。昨今、人類学ではアメリカやオーストラリアを中心に、人間と多種の絡まり合いを描く「マルチスピーシーズ民族誌」と呼ばれる潮流が広がりつつある。マルチスピーシーズ民族誌は、人新世の議論を受けて「人間と他の種がどう生きるべきか」という倫理的な問いを土台に発展してきた。そのため、マルチスピーシーズ民族誌の書き手は、倫理や正義の問題へ関心を寄せ、それらをどう分析し語るのかということに積極的に取り組んできた。中には、物語性や想像力を重視した実験的な民族誌も試みられ、書き手の倫理的判断や政治的な立場を民族誌に反映させるものも少なくない。その一方で本論文では、ウルシと人間の入り組んだ関係を実際に生じている現象に付随して描き、フェミニズム科学論の概念を援用しながら多層なスケールで多面的かつ微細に描く。そのために、カーラ・ハスタックとナターシャ・マイヤーズの「巻き込み」という概念を参照する。さらにウルシと人間が巻き込まれていく様子を3つのスケールで描き出すために、ブルーノ・ラトゥールの情動論を拡張する。複数のスケールでウルシと人間が互いに巻き込まれていくことを微細に描くことで、人間と他の種をめぐる倫理的課題を探求する1つの手がかりとなることを目指す。

特集 景観の力学を記述する——日本の山村を対象にした異分野との協働研究をもとに
  • 内藤 直樹, 石川 登
    2023 年 88 巻 2 号 p. 230-242
    発行日: 2023/09/30
    公開日: 2023/12/29
    ジャーナル 認証あり

    The purpose of this special issue is to clarify how accumulated activities and their linkages to humans, heterogeneous organisms, and materials have generated mountain village landscapes in Japan's industrial capitalist society and to present new methodologies for understanding their historical dynamics and appropriate interventions from an anthropological perspective. To this end, specialists in geology, anthropology, architectural history, history, and area studies collaborate to provide an ethnography/ ethnohistory of mountain village landscapes in Japan since the early modern period.

    Several of Japan's mountain village landscapes may be more appropriately regarded as "ruins" than as places that remain unaffected by the state or industrial capitalism. Adopting this perspective, we approach the present mountain village landscape not as a place that is removed from the logic of the state and capital but rather as a historical space in which these influences have accumulated. The papers in this special issue examine the triad of plates, soils, slopes, and other material environments; crops, including millet, paddy rice, mountain tea, cedar, tobacco, and other species; and the people associated with them within a long-term historical scale (i.e., longue durée) since the early modern period, placing them within their broader political and economic contexts.

  • 徳島県西部における産業資本主義の跡地としての山村景観の力学/動態
    内藤 直樹, 殿谷 梓
    2023 年 88 巻 2 号 p. 243-263
    発行日: 2023/09/30
    公開日: 2023/12/29
    ジャーナル 認証あり

    本稿の目的は、景観の生産に関わる文化人類学者と地球科学(地質学)者の協働と対話を通じて、ユニークな物質的特性を備えた山村景観の動態を理解するための気づきを得ることにある。そのために「手に負えない景観(feral landscape)」論を手がかりにしつつ、それぞれ異なる時間スケールや情報に焦点をあてる地球科学(地質学)と文化人類学の協働に基づく景観史/誌の記述をおこなう。そうすることで「国家からの逃避地」や「過去」に見えるような現代日本の山村景観が、国家や産業資本主義的な諸力や地域住民の外密的な働きかけの連関によって生み出された、国家やグローバルな資本主義と結びついた「未来」の景観であることを明らかにする。具体的には徳島県西部の山村景観が①地球のプレート運動という大地の時間、②近世以降の山村での葉タバコ生産というプランテーションの時間、③崩れ続ける大地に反復的な働きかけを続ける日常的な実践の時間が絡まり合うなかで生成されてきた動態を記述する。

  • 景観・生業・政治権力の関わりのなかで
    町田 哲, 石川 登, 内藤 直樹
    2023 年 88 巻 2 号 p. 264-286
    発行日: 2023/09/30
    公開日: 2023/12/29
    ジャーナル 認証あり

    本稿は、東南アジア大陸部と日本を対象とした文化人類学や歴史学などの異なる学問分野による「山地社会」研究を相互参照しながら、景観・生業・政治権力の相関のなかで「山地-平地」の関係理解を目指すものである。具体的には、四国山地東部の近世木頭村(現・徳島県那賀郡那賀町)における山里景観の歴史的形成プロセスとその変容過程について、村内の社会関係とそれに基づく山の用益関係を中心としながら、政治権力、植生の攪乱、そして流通という諸要素とのせめぎあいのなかで、歴史的かつ動態的に解明する。近世日本における焼畑を伴うパッチ状の山里景観は、幕藩体制下での検地や年貢、それに対応した土地利用に関する親族および社会制度や、焼畑休閑地での作物の産物化、そして流通といった、内外の他の景観構成要素との絡まり合いのなかで生成していた。それは幕府や藩による支配が山里を特殊な地域として扱ってきたことや、焼畑耕作地での産物化が近世都市の需要に応える形で展開したことによる。このように近世期における景観生成を明らかにすることを通じて、過去の山里景観の動態に関わる幅広いアクターを捉えることが可能となる。

  • 高知県東部・魚梁瀬山における国有林森林鉄道の導入を事例に
    岩佐 光広, 赤池 慎吾
    2023 年 88 巻 2 号 p. 287-307
    発行日: 2023/09/30
    公開日: 2023/12/29
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    本論では、自然物や人工物からなる構成要素とその配置構成から成り立つ物質的形態という意味での景観の生成や動態に注目する近年の景観人類学のアプローチを援用しつつ、特に人間と人間以外の存在の「固有の時間」の絡まり合いに着目しながら、日本の国有林を含む山地景観の生成とその動態を記述することを試みる。その事例として、高知県東部の中芸地域に位置する魚梁瀬山を取り上げる。江戸時代の土佐藩における代表的な林業地であった魚梁瀬山は、明治時代に入るとその山林の多くが国有林化され、明治時代末には木材陸運のための森林鉄道が導入されたことで、その景観が大きく変容した。この約200年にわたる魚梁瀬山の山地景観の動態を本論では、山岳などの地形、気象条件、主要河川を中心とする水文環境、そこに育ち資源として利用されてきた樹木、森林鉄道といった自然物や人工物と、国家やその関連組織、地域社会などの人間の統治・管理・開発をめぐる思惑と働きかけとの絡まり合いとして捉え、特にそれぞれの固有の時間の流れが接合したりズレたりするところに注目しながら記述する。そして、こうした作業を通じて、本論における人間と非人間の固有の時間の絡まり合いに着目するアプローチが、景観人類学の現代的課題に対して有する意義についても検討する。

  • 山茶の事例から照葉樹林文化論を景観論に読み替える
    片岡 樹
    2023 年 88 巻 2 号 p. 308-326
    発行日: 2023/09/30
    公開日: 2023/12/29
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    本稿では、山茶を事例に、四国山地における山村景観の形成をめぐる力学を、将来的な東南アジアとの比較をも視野に入れつつ考察する。西南日本と東南アジア大陸部山地とを結ぶ文化的共通性については、これまで照葉樹林文化論が主に取り扱ってきた。しかし照葉樹林文化論は、日本文化の源流の探求にこだわるあまり、現実を反映しない硬直した図式化に走ってしまったきらいがある。そのため本稿では、照葉樹林文化論における四国山地への着目が、これまで後発酵茶の起源問題に終始してきた点を批判した上で、釜炒り緑茶生産をも視野に入れつつ、そこでの焼畑と山茶利用の歴史を再検討する。そこからは、そもそも四国山地の焼畑や山茶利用によって構成される景観は、照葉樹林文化論が想定していた「稲作以前」ではなく、むしろ特殊近世的な環境、すなわち幕藩体制による辺境統治と市場経済の浸透の中で成立してきたことが明らかになる。そうであるならば、四国山地における焼畑に付帯した山茶の利用を東南アジアと比較する上では、照葉樹林文化論の一連の発見を、系譜論から機能論に読み替える必要があり、そこからは、山茶から見た比較国家論の可能性が視野に入ってくる。

  • 建築、都市デザイン、佐渡の棚田農業を巡って
    野澤 俊太郎
    2023 年 88 巻 2 号 p. 327-348
    発行日: 2023/09/30
    公開日: 2023/12/29
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    本稿は、建築家、都市デザイナー、並びに農業者を空間や作物等を「つくる存在」として並置し、景観「の中に」いる「つくる存在」としての彼らの空間および物理的環境への働きかけを詳述する。その試みは、景観形成に関わる非人間を含む様々な存在が、他者の持つ(広義の)能力、システム、インフラストラクチャー等に計らずも「ちょっとずつ寄りかかりあう」構造を浮かび上がらせる。本稿はまず、景観への関心が高まりを見せる1960年代から出発し、建築家および都市デザイナーの景観に対する態度の移り変わりを再訪する。景観形成の躍動における自身の不在に対する気づきによって、彼らが合理主義とは一線を画した景観を巡る実践的理論および方法論の構築へと向かう様子を詳らかにする。続いて、佐渡の棚田における環境共生型農業の事例に目を向ける。激減するトキの保護活動から昨今の環境共生型農業に至るまでの農業者と棚田景観の関係を吟味し、環境共生型農業の実践によって「ちょっとずつ寄りかかりあう」構造が生み出される実態へと接近する。それは、「ちょっとずつ寄りかかりあう」構造における建築家・都市デザイナーおよび農業者が、並行しつつも景観を巡って類似の境遇にあることを浮かび上がらせる。本稿は、「ちょっとずつ寄りかかりあう」構造の生成的な営みそれ自体が、景観形成のダイナミズムになっている様相を描く。

萌芽論文
  • 現代日本のパチンコにおける「デザイン」に着目して
    大島 崇彰
    2023 年 88 巻 2 号 p. 349-359
    発行日: 2023/09/30
    公開日: 2023/12/29
    ジャーナル 認証あり

    Focusing on the view that the interaction between the "design" of the pachinko machine and the player shapes the experience of playing pachinko, this article discusses some new aspects of players' experiences. It shows that players repeatedly play because the "predictability" of winning attracts them. This is assumed based on the numerical data presented by the pachinko machine manufacturers or the design of data-related presentations around the pachinko machine. This article also focuses on the belief and practice of "Okaruto" which players spontaneously create and find enjoyment with. Finally, it concludes that pachinko players are not only enticed by the seeming predictability but also hold their ways to find excitement from the unpredictability of betting.

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