2025 年 60 巻 1 号 p. 64-73
【目的】心血管疾患 (冠動脈疾患及び脳卒中) の発症予防のために、我が国では腹部肥満の存在を必須とするメタボリックシンドロームに着目した特定健診・特定保健指導が実施されている。しかし、非肥満者であっても危険因子の存在や集積が心血管疾患発症リスクとなり、日本人ではその割合が大きいことから、非肥満者で危険因子を有する者への保健指導実施の必要性が指摘されている。肥満の有無による危険因子集積数と心血管疾患発症との関連については、地方住民を対象とした研究が多く、都市部職域勤労者を対象とした研究は少ない。そこで本研究は都市部の自治体職員を対象とする愛知職域コホート研究において、危険因子とその集積数による心血管疾患発症リスク及び集団寄与危険割合 (PAF) を肥満の有無別に推定することを目的とした。
【方法】2002~08年をベースラインとする愛知職域コホート研究対象者の内、心血管疾患・がん既往のある者、血圧・血糖・脂質・肥満度・蛋白尿・喫煙に欠損のある者、追跡期間1年未満の者を除外した7,179人を対象とした。高血圧 (収縮期血圧≧140 mmHgかつ/又は拡張期血圧≧90 mmHg、又は高血圧治療者)、糖尿病 (空腹時血糖≧126 mg/dL又はHbA1c≧6.5%、又は糖尿病治療者)、高LDLコレステロール血症 (LDLコレステロール≧140 mg/dL又は脂質異常症治療者)、腎臓病 (尿蛋白±以上、又は腎臓病治療者)、現喫煙の5つの危険因子の保有数 (0、1、2、≧3) により4群に分け、心血管疾患発症との関連について多変量調整Cox比例ハザードモデルによるハザード比 (HR) と人口寄与危険度割合 (PAF) を推定した。
【結果】追跡期間中の心血管疾患発症者数は99名 (非肥満群66名、肥満群33名) であった。非肥満者で危険因子を有さない群と比較し、非肥満者で危険因子1個の群 (HR: 2.43, 95%CI: 1.14-5.21)、2個の群 (HR: 3.96, 95%CI: 1.79-8.74)、3個以上の群 (HR: 4.75, 95%CI: 1.73-13.0)、肥満者で危険因子1個の群 (HR: 4.31, 95%CI: 1.85-10.00)、2個の群 (HR: 3.75, 95%CI: 1.47-9.57)、3個以上の群 (HR: 7.53, 95%CI: 2.86-19.8) における心血管疾患発症リスクは有意に高かった。PAFは、非肥満者で危険因子1個の群、2個の群、3個以上の群でそれぞれ16.7%、16.6%、5.6%、肥満者の危険因子1個の群、2個の群、3個以上の群でそれぞれ10.9%、6.7%、7.0%でいずれも有意であった。
【結論】肥満の有無によらず危険因子が集積するほど心血管疾患発症リスクは高くなった。危険因子2個以上の集積によるPAFの合計は非肥満群で22.2%、肥満群で13.7%であった。