2011 年 48 巻 2 号 p. 2_1-2_11
20世紀に発展を遂げた比較経済学という研究分野の見せかけ上の終焉は,しばしば,資本主義を我々にとって唯一の経済システムたらしめた共産主義経済崩壊の帰結だと見なされている.更に,「旧」比較経済学は,資本主義の多様性に注目し,その殆ど唯一の説明要因を制度に求める「新」比較経済学に取って代わられた.私は,「旧」比較経済学の終焉は,共産主義の消滅,ないしは,比較経済学が,経済成果に現れるシステム間の差異の原因を理解することに失敗したという事実よりも,むしろ,経済システムの比較に用いられる基準選びの観点で,致命的な欠陥があったという事実により深く関係していると主張する.「新」比較経済学の際立った優位性は,ある経済システムのパフォーマンスを吟味するに際して,唯一の基準を選択したことに求められる.本稿において,私は,多国間比較分析への「新」比較経済学の貢献を検証することによって,所得水準という単一的な判断基準の利点を例証し,この分析作業に基づいて,次に,経済成果の分析に対する「旧」比較経済学のアプローチには,依然として有用性があると提言する.