質的心理学研究
Online ISSN : 2435-7065
子どもの「非行」と向き合う親たちの語りの拡がり
セルフヘルプ・グループにおけるオルタナティヴ・ストーリーの生成に注目して
北村 篤司能智 正博
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2014 年 13 巻 1 号 p. 116-133

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抄録
本研究は,子どもの「非行」と向き合う親たちのセルフヘルプ・グループにおいて,参加者の語りや体験が変化していくプロセスを明らかにし,当事者にとってのグループの意義や機能を検討したものである。調査はフィールドワークによる参与観察と,参加者に対するインタビューを組み合わせて行われ,データの分析は,語られた内容だけでなく,語り方や語る体験の変化にも注目して進められた。結果として,参加者の語りは,時間が経過するにつれて,〈「非行」に巻き込まれる語り〉,〈「非行」を捉え直す語り〉,〈「非行」を受けとめる語り〉と変遷し,そこには参加者の認識や体験の変化が影響していることが明らかになった。この変化のプロセスは,参加者の視点が重層化し,語りの厚みが増す中で,語りにおける視野や意味づけの可能性が拡大し,ストーリーが変化していくプロセスとして捉えられた。また,この変化はグループとの相互作用の中で進行するものであり,参加者はグループのナラティヴのもつ新しい見方を知り(ナラティヴの「習得」),それを取り入れて,自分自身のオルタナティヴなストーリーを生成していた(ナラティヴの「専有」)。その過程において,グループは,ナラティヴを通じて新しい視点や見方を提供することで参加者の語りの可能性を拡げると共に,参加者の感情の吐き出しを受けとめ,抵抗や葛藤が伴う長いプロセスを支える機能を果たしていると考えられた。
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© 2014 日本質的心理学会
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