抄録
日本語のラ行音は比較的獲得が遅れる音であるとされている。子どもたちの発話にこのような大人とは異なる逸脱形が出現するのは,発達が未熟な段階の子どもたちにとってはラ行音の発音が難しく,より発音のしやすい音で代用しようとするからだ,と一般的に言われている。しかし,幼児の発話を注意深く観察してみると,ラ行音のダ行音への置換だけではなく,ダ行音からラ行音への置換も観察される。このようなラ行音とダ行音の混同は,幼児の発話のみならず,日本の諸方言においてもみられる現象である。本稿では,幼児言語と方言との間に観察される共通性に焦点を当てながら,言語獲得のプロセスおよびその原理を音韻的観点から論じる。