聴能言語学研究
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言語表出が重度に遅れた1ダウン症児の言語習得と構音障害
斉藤 佐和子
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1996 年 13 巻 1 号 p. 12-19

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抄録

ダウン症児の言語障害の特徴として表出の遅れと構音障害があげられる.筆者は精神発達の遅れが中度であるにもかかわらず,7歳近くになってもほとんど言語表出のないダウン症児を5年にわたり指導した.口型図や文字を利用した指導の結果,短い音節の語から表出を獲得し,最高5文節文まで可能となったが,構音障害が重篤で発話が不明瞭であった.構音障害の特徴として有声音と無声音の対立がはっきりせず,口唇音以外の破裂音が摩擦音より獲得が遅れ,破裂音が歪むことが多いなどがみられた.障害の原因として発語器官や聴覚認知,音声表出のための運動企画や構音運動習得の障害では説明しきれず,音韻体系の獲得の困難が根底にあり,正しい音のイメージをもち,そのイメージと照合しつつ音の表出をすることに問題があると考えられた.その結果,指導は視覚刺激を利用し,構音指導の順序は健常児の構音発達にこだわらず,症例の構音の特徴にあわせることが必要と思われた.

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