抄録
本研究は,コミュニケーションの成立が困難とされる重度知的障害者(CA21歳)と大学生との間の初期のかかわりについて,話者間に生じる音声の協調的リズム(対人間リズム)と,大学生の内省報告における会話に対する主観的評価との関係を明らかにすることを目的とした.大学生の内省報告13例の特性を求め,3例の二者間の会話に対して音声の非言語的側面(時系列パターン)に対する微視的・音響学的分析,および発話の逐語記録の分析を行い,この三者の関係について検討した.結果,会話の時間経過に伴って会話の円滑化や共感の成立がなされたとの評価特性(多くは主観的評価)に対応して,話者交替の潜時と話速度という微細なレベルの指標に,約10分間という短時間に話者間の協調によるリズムの調整がみられた.またこの調整は,発話の言語的な部分での習熟や,対人間リズムの全体的な構造の成立頻度の上昇がみられない場合でも生起すると考えられた.