コミュニケーション障害学
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〈子どものセラピィ〉難聴児との関わりから学んだこと
野中 信之
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2006 年 23 巻 1 号 p. 64-68

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抄録

難聴幼児の言語獲得上の予後は聴力という要因だけでは説明できない.本稿ではそこにことばの基盤の完成度という要因を想定し,事例を観察した.なお,ことばの基盤とは子どもが物に興味を示すと同時に人にも興味を示すことである.観察の結果,言語獲得に困難を示す難聴児の中にことばの基盤の形成が不良な場合があるとわかった.ことばの基盤は情緒的関わりを通じて形成され,その過程で「自分と相手との関係を繰り返し試す行動(対人的循環反応)」と「待つ」という期待行動とが現れる.また,よくあやされた正常児は乳児期後半にことばの基盤を形成する.本稿で観察した難聴乳児では,対人的循環反応が始まるまでに1ヵ月を要したが健聴乳児では数分間であった.これは聴覚には他者の存在を認識する「きっかけ」としての機能があるためと考えられた.またこの機能が乏しい難聴児ではことばの基盤の形成が遅れやすいと考えられた.

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