家庭裁判所における非行臨床の歴史を方法論に基づいてその変遷を振り返った。最初に,家庭裁判所におけるケースワーク論の変遷である。家庭裁判所調査官はケースワーカーであるといった1960年代からの論文を中心に,その後ケースワーク論が下火になっていく時代的な背景について検討した。っぎは,精神分析的精神療法に代表される精神内界へのアプローチを取り上げ検討した。1960年代より,家庭裁判所調査官の精神分析的精神療法に対する関心はきわめて高く,特に土居健郎をはじめとして外部講師からの影響は計り知れない。また,彼らのもとでのスーパーバイジー体験から学んだ成果が論文として数多く産出されることになり,非行臨床の一翼を担うことになる。また,家族療法に代表される家族・集団に対する対人関係へのアプローチはその後,ブリーフセラピーや解決志向アプローチへと広く展開されることになる。ここでは,深い理解よりも問題を解決しようとする実践的なスタンスが強調されている。2000年代に入り,保護的措置の説明責任が求められるなか,家庭裁判所はより分かりやすい援助,介入として社会奉仕活動を積極的に取り入れることになる。