2016 年 53 巻 2 号 p. 1-15
本研究では,文書を用いた恐喝事件に関する基礎的な知見を提供することを目的として,事件の類型化を行い,各類型と犯人特徴の関係について検討した。分析データとして用いたのは,2004年から2012年の間に全国のいずれかにおいて発生して解決した文書を用いた恐喝事件に関する情報である(N=414)。多重対応分析を行った結果,「匿名性の程度」と「罪悪感利用の程度」の2次元が見出された。次に,多重対応分析によって得られたオブジェクトスコアを基に階層的クラスター分析を行った結果,「匿名性低―罪悪感利用低群」,「匿名性低―罪悪感利用高群」,「匿名性高群」の3類型が見出された。類型と犯人特徴の関連について分析したところ,「匿名性低―罪悪感利用低群」は20代以下の犯人が多く,友人・知人を犯行対象としていること,「匿名性低―罪悪感利用高群」は怨恨・憤まんを動機として,配偶者・恋人や情交関係にあった者を犯行対象にしていること,「匿名性高群」は50代または60代以上の犯人が多く,生活費・借金苦を動機として会社等に対する恐喝を行っていることが示された。