抄録
1984年から1993年までの10年間に当科にて行った直腸癌局所切除術12例について臨床病理学的に検討した。手術は経肛門的9例, 経仙骨的2例, 経括約筋的1例であった。壁深達度はm5例, sm4例, mp2例, a21例であり, mp癌とa2癌は術前から進行癌の診断であったが, 高齢などの点で局所切除を行った。m癌症例はすべて再発の徴候はなかった。sm癌の1例は局所再発を認めたが, 再度局所切除後は再発の徴候は認めていない。mp癌の2例はいずれも術後照射を行い, 1例は局所再発を認め, 腹会陰式直腸切断術を行い, その後は再発を認めていない。さらにa2癌の1例は86歳と高齢のため経仙骨的に局所切除したが, 局所再発を認め現在入院中である。以上より, 直腸肛門癌に対する局所切除術はそれで根治性が得られたり, 全身状態が不良の症例に対して手術侵襲が小さく, 適応の選択さえ誤らなければ機能温存という点からもメリットが大きいと思われた。