抄録
管腔臓器として代表的な食道・胃・大腸・直腸について述べる。A) 胸部食道癌 : 当該癌腫の予後はこれを専門としている施設と, そうでない施設で大きな差をみている。国立がんセンターの全国統計ではCO-CI症例 (1483例) の5生率は6.08%, CII-CIII症例は27.9%である。最近の切除例は70%をこえる。ちなみに私どもの教室のCHII症例 (272例) の5生率は54.8%である。B) 胃癌 : 5生率は69% (5248例) と改善し, 切除率は97%と特殊例を除きほぼ全例が切除可能となった。手術死亡率も0.6%と激減している。C) 大腸癌・直腸癌 : 結腸癌 (2067例) の5生率は56.9%, 直腸癌 (2176例) のそれは, 53.8%である。近年, さらに, 転移第1臓器である肝転移に対して積極的な切除が行われており, 本療法が予後改善につながっている。総じて, 管腔臓器癌腫に対する術式の変遷や改良も著しい。その理由のひとつに, QOLを重視した手術が, 患者側から強く望まれるに至り, 癌発生臓器の温存や, 隣接臓器機能温存のための神経, 血管温存術式の改良が重ねられ, これに, 近年燎原の火のように世界中に拡まった腹・胸腔鏡下手術 (Minimum invasivesurgery, MIS) が発達した。拡大手術とは, 全く考え方を異にした癌腫に対する外科療法の効力 (あるいは経験) より, 可及的に外科手術で癌腫および附属 (隣接) 臓器合併切除に加え, 癌が浸潤あるいは転移すると予測 (あるいは経験による) される組織や臓器を合併切除する療法であるから, 今後MISとともに, 二極化がさらにすすむものと考えられる。一方, 病理学, 細胞生物学, 分子生物学的解析および画像診断の進歩により, 術前癌腫の拡がりや悪性度が判定されるようになり, 癌腫の個性や臓器予備能を勘案した治療法 (筆者はこれをMalignant Potential Oriented Therapiesと提唱している) がおしすすめられてくることとなろう。