2005 年 30 巻 5 号 p. 790-794
症例は38歳, 男性。腫瘤形成性慢性膵炎, アルコール性肝障害にて近医通院中に右下肢痛とチアノーゼが出現し, 右下肢急性動脈閉塞症と診断され, ウロキナーゼ投与を開始した。投与開始後3日目に腹痛, 下血が出現したため, 当院に転院した。腹部CTで腹水および膵前面に高濃染像を認め, 腹腔穿刺で血性腹水を認めた。腹部血管造影で, 出血源は同定できず, 緊急手術を行ったところ, 血性腹水と大網に凝血塊, 壊死物質の付着を認めた。腹腔内出血の原因は大網内血管の破綻と判断し, 大網を切除した。病理組織学的に, 大網は器質化を伴う脂肪壊死および血腫と診断された。自験例は, 術後49日目に全治退院したが, 慢性膵炎を合併しており, これに伴う炎症が, 長期間大網の細血管に作用して脆弱化し, ウロキナーゼ投与を契機にこれらの細血管が破綻したため, 出血を起こしたものと考えられた。