登山中の滑落事故により発生した胸部大動脈損傷症例を,ヘリコプターによる迅速な搬送と緊急手術により救命し得たので報告する.症例は38歳男性.登山中,過って急斜面を約30 m滑落し受傷した.ヘリコプターで約2時間後に当院に緊急搬送された.胸腹部造影CTで大動脈峡部に造影剤の漏出とその周囲に血腫を認め,外傷性胸部大動脈損傷と診断し,緊急手術を行った.麻酔導入後,ショック状態に陥った.再破裂と判断し,可及的速やかに左第IV肋間開胸を行い,出血をコントロールし,同時に左大腿動脈送血,経左大腿静脈-右房脱血で人工心肺を確立した.大動脈峡部小弯側に1/3周にわたる破裂孔を認め,同部位を人工血管(Hemashield Gold 22 mm)にて置換した.術後経過は概ね順調で術後30日目に独歩退院した.