日本心臓血管外科学会雑誌
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症例報告
クエン酸シルデナフィルが術後肺高血圧に有用であった心室中隔欠損症の1例
山崎 元成丹原 圭一川崎 志保理山本 平菊地 慶太稲葉 博隆天野 篤
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2009 年 38 巻 4 号 p. 252-258

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抄録

肺高血圧を合併した遺残短絡を有する心室中隔欠損(Ventricular septal defect:以下VSDと略す)の再閉鎖術後に再増悪した肺高血圧に対してクエン酸シルデナフィルが有効であった1例を経験したので報告する.患者は60歳,男性.9歳から心雑音を指摘されていたが,日常生活の活動には支障がなく放置していた.19歳時会社の検診で,精査を勧められ,VSDと診断され当院で手術を施行した.1年前から下肢浮腫,労作時息切れが出現し,精査にてVSD遺残短絡,肺高血圧,僧帽弁閉鎖不全,三尖弁閉鎖不全,心房粗動を認めた.遺残短絡閉鎖術,僧帽弁置換術,三尖弁弁輪形成術,Maze手術を施行した.収縮期肺動脈圧は手術開始時に70 mmHgだったものが,人工心肺離脱時には39 mmHgに低下していた.第4病日,人工呼吸器からの離脱10時間後,低酸素血症を契機に,収縮期肺動脈圧が35 mmHgから90 mmHgに上昇,喀痰排泄困難を生じ,低酸素性肺血管攣縮による肺高血圧と診断し,再挿管,NO(一酸化窒素)吸入療法を施行したところ,呼吸状態,肺高血圧症は改善した.第9病日の再度抜管後は,21時間NO吸入をマスクで行いつつNOからの離脱を行った.しかし,NO離脱後15時間,再び喀痰排泄困難によると思われる低酸素血症を契機に呼吸不全となり,再挿管となった.第16病日,2回目のNO吸入療法からの離脱に際しては,抜管前日よりシルデナフィルを経管投与し,抜管後はマスクによるNO吸入を行いつつ,抜管20時間後にNOを中止した.術後35日目に施行した心臓超音波検査では,VSD再閉鎖部で心室中隔の奇異性運動による心機能の低下が認められたものの,推定収縮期肺動脈圧は30 mmHg台で安定し,シルデナフィルは内服継続のまま退院可能となった.術後の遷延する低左心機能に合併した低酸素血症に伴う肺高血圧症に対し,NO吸入療法が有効であった症例で,抜管後,それに代わる治療の選択肢の一つとしてシルデナフィルが有効であり,術後肺炎などの低酸素血症に起因した肺高血圧症に対しても,投与の適応があると考えられた.

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