日本心臓血管外科学会雑誌
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原著
シロスタゾール徐放フィルムによる血管吻合部新生内膜増殖抑制に対する実験的研究
加賀谷 智明小田 克彦河津 聡本吉 直孝川本 俊輔赤坂 純逸新田 能郎齋木 佳克井口 篤志田林 晄一
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2010 年 39 巻 4 号 p. 162-171

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抄録

冠動脈バイパス術は技術の進歩,動脈グラフトの使用などで成績は向上しているが,問題点の一つとして新生内膜肥厚による吻合部狭窄があげられる.本研究の目的は,シロスタゾールと生体吸収性材料であるポリL乳酸・カプロラクトン共重合体(copolymer of L-lactide and ε-caprolactone ; P(LA/CL))を混合したシロスタゾール徐放フィルムによるイヌ大腿動脈吻合モデルの吻合部被包が,吻合部新生内膜の増殖抑制効果を有するかについて組織化学および組織計測学的に検討することである.総数20頭のビーグル犬を用いて,大腿動脈を2カ所切断し端々吻合を行った動脈吻合モデルを作製した.フィルムに含有させるシロスタゾールの量は10,40,80 mgとし用量効果について検討した.また,フィルムを使用せず吻合のみ試行した群をコントロールとした.手術終了4週間後に肉眼的所見を観察後,吻合部の病理組織学的検討を行った.シロスタゾール徐放フィルム群で有意に内膜中膜比の減少が認められた.また,proliferating cell nuclear antigen(PCNA), α-smooth muscle actin(α-SMA)およびdesminに対する各抗体を用いた免疫染色による検討では,シロスタゾール徐放フィルム群でコントロール群と比較しPCNA index, α-SMA陽性細胞率の有意な低下がみられた.Desmin陽性細胞率は80 mg群で有意な低下を認めた.シロスタゾール徐放フィルムを吻合部外膜側から投与することで,新生内膜肥厚抑制効果が確認でき,血管吻合術の長期予後改善に有望な手法となる可能性が示唆された.

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