日本心臓血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1883-4108
Print ISSN : 0285-1474
ISSN-L : 0285-1474
原著
早期の持続的血液濾過透析(CHDF)導入による臓器障害予防
—体外循環後の循環虚脱への対策—
久川 聡
著者情報
ジャーナル フリー

2010 年 39 巻 6 号 p. 294-299

詳細
抄録
体外循環手術症例では,心拍出量が十分にもかかわらず術後に循環虚脱や臓器障害をきたすことがある.今回,早期CHDF導入の有効性をサイトカイン,循環,呼吸,腎機能の面から検討した.2007年以降のCHDF施行例中,慢性腎不全,敗血症,補助循環装着症例を除く14例を対象とした.年齢は平均71(61~88)歳で,男女比は9対5であった.手術は,弁形成/置換術9例,冠動脈バイパス術5例,胸部大動脈置換術3例(重複あり)であった.手術時間は487±44分,体外循環時間は297±28分であった.循環虚脱の発症は,手術当日が2例,第1病日が10例(71%),第2病日以降が2例であった.CHDFは循環虚脱発症後直ちに開始し,血液濾過器はポリスルホン膜(SH-1.3,東レ社製)を,抗凝固薬はメシル酸ナファモスタットを用いた.CHDF導入前の心係数(CI)は2.7±0.1 l/min/m2,中心静脈圧(CVP)は11±1 mmHgであった.1)血液学的検討:IL-6はCHDF 12時間目には有意に低下した(216±50→92±27 pg/dl).IL-8もCHDF前の71±23 pg/dlから,12時間目には30±7へと低下傾向となった.血清アルドステロンは12時間目には有意に低下した.血清カテコラミン,顆粒球エラスターゼ,BNP,レニン活性では有意な変化はなかった.2)循環:収縮期血圧は,CHDF4時間後には有意に上昇した(94±6→123±6 mmHg).SVRIもCHDF4時間後には有意に上昇した(1,431±137→1,893±167 dyn・sec・cm-5・m2).3)腎機能:尿量はCHDF開始8時間以降には有意に増加した.血清クレアチニン値はCHDF前の2.1±0.3 mg/dlから翌々日には1.7±0.2 mg/dlへと低下した.4)呼吸:A-aDO2, Respiratory indexはCHDF 24時間後にはともに有意な改善を得た(317±37→246±31 torr, 2.9±0.4→2.1±0.2).早期のCHDF導入による炎症性サイトカインの除去と末梢血管抵抗の正常化が得られ,循環虚脱の速やかな改善と臓器障害の予防が可能であった.
著者関連情報
© 2010 特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
前の記事 次の記事
feedback
Top