抄録
転移性心臓腫瘍は稀な病態ではないが,食道癌が血行転移性に心内膜に転移することは稀である.われわれは食道癌が原発巣治療3年後に心外膜に直接浸潤することなく孤立性に右房右室内に転移し開心術で摘出した症例を経験したので報告する.症例は67歳女性.64歳時食道癌(低分化型扁平上皮癌stage IVa)に対して放射線+化学療法が施行された.67歳時胸部CT検査で右房右室内に3カ月前のCT検査ではなかった陰影欠損が見られた.心エコーでは右房内に可動性の不整形腫瘤を認めた.右房内腫瘍または血栓と診断され,心エコー検査の翌日に緊急手術を施行した.右房切開した所淡紅色で不整形の脆い腫瘤があり迅速病理検査で扁平上皮癌と診断された.可及的に右房右室内の腫瘍を切除した.術後29日で退院したが,2カ月後に心筋内転移が再発した.化学療法を施行したが多発リンパ節転移,心内再々転移により術後6カ月で死亡した.手術は根治的ではなかったが,腫瘍肺塞栓の予防と生存期間の延長に効果があったと考えられた.