抄録
症例は49歳男性.2~3カ月前から労作時に息切れを自覚していた.嘔気,嘔吐の症状を認め当院救急外来を受診し,著明な鉄欠乏性貧血と血糖の上昇を認め同日入院した.入院後,輸血と鉄剤投与により貧血は徐々に改善した.下部内視鏡検査でS状結腸早期癌を認めるが便潜血は常に陰性であったため,他の貧血精査のために全身造影CTを施行したところ下行大動脈内腔に辺縁不正な腫瘤状陰影を認めた.また無症状ながら両下肢末梢動脈塞栓の所見を認めていた.凝固能に関しては採血上,D-dimerが軽度上昇していたがその他に異常所見は認めていなかった.大動脈内腫瘤に対して経食道エコー,MRIを施行するが腫瘍か血栓かの鑑別診断に至らず,また塞栓症再発の危険性もあったため,体外循環下にて大動脈を腫瘤の末梢および中枢で遮断し腫瘤と大動脈を一塊に切除後,下行大動脈置換術を施行した.腫瘤は長径5 cmほどあり広基性で白色であった.一部末梢側に自壊を認め下肢末梢動脈塞栓の原因として考えられた.病理検査で腫瘤は血栓と診断され,血栓付着部の内膜は肥厚と軽度のアテローム変性を認めていた.血栓形成との因果関係は不明であったが,S状結腸早期癌に対しては内視鏡的切除術を施行し以後再発なく経過している.また退院後抗凝固剤の投薬なく経過しているが2年たった現在,貧血なく大動脈内血栓の再発も認めず経過している.