日本心臓血管外科学会雑誌
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41 巻, 2 号
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巻頭言
原著
  • 金光 尚樹, 青田 正樹, 平尾 慎吾
    2012 年 41 巻 2 号 p. 53-57
    発行日: 2012/03/15
    公開日: 2012/03/28
    ジャーナル フリー
    Reversed elephant trunk(以下R-ET)techniqueは広範囲大動脈瘤のstaged repairで末梢側手術を先行する場合,次回手術に備え人工血管の中枢側を内側に折り返しておく方法である.正中切開から行う弓部置換は肺門レベルまで可能とされるが,十分な視野やworking spaceが得られず剥離や末梢吻合,止血に難渋することがある.R-ETを施行すれば折り返した人工血管を引き出すことで容易に末梢吻合を行うことができる.R-ETをおいた症例で当初の目的を達成できたか,R-ETに起因するトラブルがなかったか,について検討した.下行大動脈瘤,胸腹部大動脈瘤症例のうち,6例にR-ETをおいた.男性5例,女性1例,平均年齢61.7歳(54~69歳).下行大動脈瘤破裂1例,下行大動脈瘤切迫破裂2例,胸腹部大動脈瘤切迫破裂1例,下行大動脈嚢状瘤2例であった.術式はすべて人工血管置換術を行った.人工血管は初期3例でHemashield,後期3例でGelweaveを使用した. 6例中3例に2期手術として弓部置換を施行し(初回手術後14,23,38カ月),1例が7カ月後に破裂死亡した.残り2例は中枢側の拡大なく観察中である.観察中後期2例に折り返した人工血管と外側の人工血管の間に血栓形成を疑うCT像を認めた.末梢への血栓塞栓症を生じなかった.うち1例に弓部置換を行い折り返しの外側に血栓を認め,これを除去して吻合を行った.2回目の手術を施行した3例とも末梢側吻合は容易で出血もなく,肺損傷,反回神経麻痺,横隔神経麻痺などの合併症はなかった.弓部置換を施行した3例中1例を多発性脳梗塞で失った.R-ETをおいた症例では2回目手術の末梢吻合は容易であり出血や剥離に関するトラブルを生じず有用であった.折り返し部分に血栓を生じたが再手術時に確実に血栓を除去することで使用可能であった.
  • 塩見 大輔, 高橋 亜弥, 垣 伸明, 木山 宏
    2012 年 41 巻 2 号 p. 58-62
    発行日: 2012/03/15
    公開日: 2012/03/28
    ジャーナル フリー
    急性肺動脈血栓塞栓症(APTE)は急激な経過をたどる場合があり当院では積極的に外科的血栓摘除を行っている.対象症例は2004年1月から2010年12月までの15例であった.手術適応は,発症7日以内,循環動態不安定,造影CTで両側肺動脈閉塞または片側肺動脈閉塞とその中枢側浮遊血栓の存在,心臓超音波検査で右心負荷所見の存在,以上4点を満たした場合とした.術前PCPS(percutaneous cardiopulmonary support)挿入は1例,術前心肺蘇生は2例であった.手術は人工心肺補助心拍動下に行い病院死亡は敗血症1例,低酸素脳症1例,脳梗塞1例の計3例(20%)であり,術前心肺蘇生を要した2例は死亡した.術前より歩行不能であった1例を除き全例独歩退院した.平均経過観察期間は33±23カ月であり,退院後再塞栓や肺高血圧は認めていない.APTEは迅速な診断と心肺停止に陥る前に手術を行うことが肝要である.外科的血栓摘除は確立された術式であり周術期を乗り切れば良好なADLと予後が期待できる.
  • 権 重好, 清水 剛, 森住 誠, 末松 義弘
    2012 年 41 巻 2 号 p. 63-66
    発行日: 2012/03/15
    公開日: 2012/03/28
    ジャーナル フリー
    第一線で活躍していた心臓外科医が,開業もしくは循環器内科,血管外科に転科するケースを目にする.心臓外科を離れた医師が,なぜ転科したのかを調査し,現在の心臓外科の環境改善に活用すべくアンケートを実施した.心臓外科を一度従事し,その後開業もしくは転科した医師(154名)を対象にアンケートを送付した.返答数56(回答率36%),心臓外科に従事していた平均年数15.4年,転科後の平均年数5.3年であり,35人(65%)が心臓血管外科専門医を取得していた.現在の職種は,一般内科・外科による開業(34%),循環器内科医(20%),血管外科医(16%),一般内科・外科による勤務医(14%),その他(16%)であった.転科した理由は,1.実家などが開業しており,跡を継ぐため(16%),2.経済的な理由(15%),3.人間関係(12%)などであった.75%の医師が「転科後,年収があがった」としている.心臓血管外科専門医を取得した医師の63%が「更新したいが,手術条件など事実上困難である」としている.自由記載では,「自己犠牲による労働が多く,実働にあった給料が支払われていない」「心臓血管外科専門医の更新条件の見直し」という意見が多かった.心臓血管外科専門医の更新に手術経験が必須であり,開業や転科後に更新が困難である.専門医として地域医療や後方支援,後身育成に貢献できる点を考慮すれば,更新条件の緩和は検討に値すると考える.また,心臓外科は厳しい労働環境下において実働に見合う評価がされないという意見が少なくない.心臓外科医の自己犠牲に依存した現況が続けば,術者育成以前に転科する医師が減らず,心臓外科の将来が危惧される.心臓外科医の取り巻く環境の早急な改善が望まれる.
  • 浦山 博
    2012 年 41 巻 2 号 p. 67-69
    発行日: 2012/03/15
    公開日: 2012/03/28
    ジャーナル フリー
    上腕静脈表在化による透析用内シャントは上肢の表在静脈が使えなくなったときの術式として行われる.黒部市民病院では過去13年間に28例の上腕静脈表在化シャントを行った.合併症としてシャント穿刺部出血2例,シャント穿刺部感染1例,シャント瘤1例を認めた.盗血症候群,静脈高血圧は認めなかった.シャント狭窄を3例に認め,カテーテル拡張術が施行された.シャント閉塞を19例に認め,2例には血栓除去術が施行された.一次開存率は1年で76.8%,4年で55.8%であった.二次開存率は1年で95.5%,4年で66.3%であった.より長く上肢の自己血管を用いてシャントを維持していくために上腕静脈表在化シャントは有用であった.
症例報告
  • 上野 隆幸, 松本 和久, 向原 公介, 豊川 建二, 松葉 智之, 四元 剛一, 福元 祥浩, 重久 喜哉, 豊平 均, 山下 正文
    2012 年 41 巻 2 号 p. 70-75
    発行日: 2012/03/15
    公開日: 2012/03/28
    ジャーナル フリー
    Valsalva洞動脈瘤は稀な疾患であり,そのなかでも冠動脈起始異常を伴ったValsalva洞動脈瘤の報告例は少ない.症例は35歳男性.全身倦怠感,咳嗽を主訴に近医で精査したところ,偶然Valsalva右冠洞動脈瘤を指摘され,精査治療目的で当院紹介となった.MDCTにて右冠動脈洞に限局した約7 cmの心外型Valsalva洞動脈瘤に右冠動脈起始部閉塞と左回旋枝起始異常を合併していた.大動脈弁閉鎖不全(AR)や大動脈弁輪拡張(AAE)がなく,弁尖も正常であったため,右冠動脈洞のみを舌状にトリミングした人工血管で基部置換するpartial aortic root remodelingと大伏在静脈を用いて右冠動脈末梢への冠動脈バイパス術およびPiehler法に準じて左回旋枝の再建を行った.術後経過は良好で,術後28日目に独歩退院した.術後MDCTではValsalva右冠洞動脈瘤は消失し,再建した右冠動脈,左回旋枝は良好に開存していた.本術式はARの進行に注意は必要であるが,正常な大動脈弁と他のValsalva洞を温存でき,Bentall法やCabrol法のcomposite graftを用いた基部再建術に比べてより生理的血行動態を維持できる点で有用な再建法と考えられた.
  • 星野 康弘, 西村 隆, 河田 光弘, 安藤 政彦, 木下 修, 本村 昇, 村上 新, 許 俊鋭, 小野 稔
    2012 年 41 巻 2 号 p. 76-79
    発行日: 2012/03/15
    公開日: 2012/03/28
    ジャーナル フリー
    症例は44歳男性で拡張型心筋症による内科的治療抵抗性の重症心不全に対しleft ventricular assist device(LVAD)装着術を施行した.LVAD装着後第11病日炎症反応の再上昇が出現し,CT上液体貯留を認め,縦隔炎と診断した.緊急で再開胸縦隔洗浄ドレナージ術を施行し,negative pressure wound therapy(NPWT)を開始した.創培養からは多剤耐性表皮ブドウ球菌が検出されたが,以後感染徴候は消退し,創は縮小している.LVAD装着後1年以上もNPWTを続行しているが,病棟内を自立歩行できており,良好なADLのもとに心移植待機中である.
  • 畠山 正治, 小野 裕逸, 棟方 護, 板谷 博幸
    2012 年 41 巻 2 号 p. 80-84
    発行日: 2012/03/15
    公開日: 2012/03/28
    ジャーナル フリー
    上行大動脈の高度石灰化を伴った大動脈弁狭窄症(AS)に対し選択的脳分離体外循環(SCP)を併用した低体温循環停止下大動脈弁置換術を施行し良好な結果を得た.症例は60歳男性の慢性透析患者.心房細動を認めたため心エコーで精査したところ,ASの診断で大動脈弁置換術(AVR)の適応となった.胸部CTで上行大動脈に高度な石灰化を認め大動脈遮断は不可能であった.手術は右腋窩動脈から送血し右房脱血により体外循環を開始した.直腸温25°Cで循環停止とし逆行性心筋保護を開始,腕頭動脈の遮断に加え左総頸動脈から脳分離体外循環も併用した.上行大動脈末梢で離断し人工血管と末梢側吻合を行った.上行大動脈末梢に吻合した人工血管を遮断し,左総頸動脈の脳分離体外循環を終了し右腋窩動脈からの体外循環を再開し復温を開始した.機械弁によるAVR,上行大動脈中枢側と人工血管を吻合し体外循環から容易に離脱した.術後は脳障害もなく経過良好であった.右腋窩動脈送血は,腕頭動脈を遮断することで直ちにSCPに移行できる利点があり,上行大動脈を操作しない“no-touch technique”であるため,術後の脳障害の予防に有用であると考えられた.
  • 佐々木 健一, 福井 寿啓, 真鍋 晋, 田端 実, 高梨 秀一郎
    2012 年 41 巻 2 号 p. 85-89
    発行日: 2012/03/15
    公開日: 2012/03/28
    ジャーナル フリー
    症例は47歳男性.1カ月ほど持続する労作時息切れを主訴に近医を受診した.胸部X線にて心拡大を認めたため心エコー検査を施行した.左房内に充満する腫瘤陰影を認めた.当院に精査加療目的で緊急搬送となった.CT検査にて,腫瘍は左房後壁から発生し,肺静脈流入部から僧帽弁直上まで左房内を占拠する不整形腫瘍であった.僧帽弁狭窄症の血行動態を呈し,急性左心不全の状態であったため,腫瘍のvolume reduction目的に緊急的に左房内腫瘍切除手術を施行した.経中隔にて左房内に到達した.腫瘍は表面平滑で不整形であった.左房内を占拠しており,後壁から頭側にかけて壁内浸潤しており完全切除は不可能であったため,可及的に切除する方針とした.術直後より血行動態は著明に改善し,術後10日目に軽快退院した.病理結果は,pleomorphic rhabdomyosarcomaであったため,術後3週間後から他院にて化学療法(シクロフォスファミド+ビンクリスチン+アドリアマイシン+ダカルバジン)を開始した.術後4カ月目のCTに腫瘍の縮小を認めたが,術後5カ月目に心房性不整脈にて入院加療となった.術後9カ月目には,残存腫瘍が増大し,術後11カ月に心不全にて死亡した.Pleomorphic rhabdomyosarcomaは頻度の低い疾患であり,今回の治療方法と経過について文献的考察を加え報告する.
  • 野中 隆広, 二宮 幹雄, 久木 基至, 大塚 俊哉
    2012 年 41 巻 2 号 p. 90-94
    発行日: 2012/03/15
    公開日: 2012/03/28
    ジャーナル フリー
    症例は49歳男性.2~3カ月前から労作時に息切れを自覚していた.嘔気,嘔吐の症状を認め当院救急外来を受診し,著明な鉄欠乏性貧血と血糖の上昇を認め同日入院した.入院後,輸血と鉄剤投与により貧血は徐々に改善した.下部内視鏡検査でS状結腸早期癌を認めるが便潜血は常に陰性であったため,他の貧血精査のために全身造影CTを施行したところ下行大動脈内腔に辺縁不正な腫瘤状陰影を認めた.また無症状ながら両下肢末梢動脈塞栓の所見を認めていた.凝固能に関しては採血上,D-dimerが軽度上昇していたがその他に異常所見は認めていなかった.大動脈内腫瘤に対して経食道エコー,MRIを施行するが腫瘍か血栓かの鑑別診断に至らず,また塞栓症再発の危険性もあったため,体外循環下にて大動脈を腫瘤の末梢および中枢で遮断し腫瘤と大動脈を一塊に切除後,下行大動脈置換術を施行した.腫瘤は長径5 cmほどあり広基性で白色であった.一部末梢側に自壊を認め下肢末梢動脈塞栓の原因として考えられた.病理検査で腫瘤は血栓と診断され,血栓付着部の内膜は肥厚と軽度のアテローム変性を認めていた.血栓形成との因果関係は不明であったが,S状結腸早期癌に対しては内視鏡的切除術を施行し以後再発なく経過している.また退院後抗凝固剤の投薬なく経過しているが2年たった現在,貧血なく大動脈内血栓の再発も認めず経過している.
  • 山下 慶悟, 阿部 毅寿, 多林 伸起, 吉川 義朗, 早田 義宏, 廣瀬 友亮, 平賀 俊, 亀田 陽一, 胡 英浩, 谷ロ 繁樹
    2012 年 41 巻 2 号 p. 95-98
    発行日: 2012/03/15
    公開日: 2012/03/28
    ジャーナル フリー
    症例は74歳,男性.労作時の息切れを主訴に近医を受診した.精査加療目的に入院加療を受けたが,症状の改善を認めなかった.心嚢液の貯留を認め,当院循環器内科に心不全の診断で転院し,経皮的心嚢ドレナージを施行された.その後も浮腫は増強し,症状の改善を認めなかった.収縮性心膜炎の診断で当科に紹介され,手術を施行した.手術は心膜切除術を行ったが,血行動態の改善を認めず,心外膜に格子状の切開を加えるwaffle procedureを追加施行した.術後浮腫も消失し,NYHA 4度から2度へ改善した.病理所見でIgG4関連心外膜炎と診断された.ステロイド治療も奏効し社会復帰した.今回,稀なIgG4関連心外膜炎の治療を経験したので報告する.
  • ——トラネキサム酸術中持続静注療法——
    濱本 正樹, 二神 大介
    2012 年 41 巻 2 号 p. 99-102
    発行日: 2012/03/15
    公開日: 2012/03/28
    ジャーナル フリー
    特発性血小板減少性紫斑病(ITP)を合併した開心術では,術前のγグロブリン大量静注療法によって血小板数を増加させて手術に臨むことが多い.今回われわれはγグロブリン大量静注療法が奏功しなかったITPに対し,トラネキサム酸の持続静注を行うことによって止血が容易であった症例を経験したので報告する.症例はITPを既往に持つ82歳,女性.労作時呼吸困難を主訴に当院を受診し,重症の大動脈弁狭窄症と診断された.術前にγグロブリン大量静注療法(400 mg/kg/日,5日間投与)を行ったが,血小板数は2.1×104/mm3 から1.9×104/mm3 と増加しなかった.手術は生体弁を用いた大動脈弁置換術を行った.手術開始から終了までトラネキサム酸20 mg/kg/時の持続静注を行った.さらに体外循環終了後に濃厚血小板製剤40単位を輸血した.止血は容易であり,術後も出血性合併症を認めなかった.
  • 坂口 尚, 佐々 利明, 森山 周二, 吉永 隆, 岡本 健, 國友 隆二, 川筋 道雄
    2012 年 41 巻 2 号 p. 103-106
    発行日: 2012/03/15
    公開日: 2012/03/28
    ジャーナル フリー
    左冠動脈主幹部にステントが留置された重度大動脈弁不全症に対し,生体弁による弁置換術を施行した症例を経験したので報告する.症例は76歳男性で,心不全症状にて当院入院となった.術前検査にて,重度大動脈弁閉鎖不全症と,左冠動脈口より大動脈内へ飛び出すようにステントが留置されていることがわかった.逆行性心筋保護法にて心停止を得た.ステントの位置を十分に観察し,人工弁を傷つけないように留置した.術後の経過は良好であり,術後心エコーでも,弁機能は良好であった.
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