抄録
症例は62歳,女性.夜間に胸痛を自覚し,翌朝近医を受診した.急性心筋梗塞を疑われ前医へ救急搬送された直後より急速な呼吸状態の悪化を来たし,人工呼吸器管理となった.緊急冠動脈造影にて第一対角枝の完全閉塞,左室造影にてSellersIV度の僧帽弁逆流,および経食道心エコーにて前外側乳頭筋断裂を認めた.急性心筋梗塞後の前外側乳頭筋断裂と診断され,手術目的に当院へ搬送された.多量のカテコラミン投与およびIABP補助下に血圧40~50 mmHgとショック状態であったため,ただちに手術室へ搬入し,緊急僧帽弁置換術を施行した.第2病日にIABPより離脱し,経過良好で第19病日独歩にて前医へ転院となった.急性心筋梗塞後の乳頭筋断裂は致命的な合併症である.本症例のように対角枝病変のみの心筋梗塞後にも発症する場合があり,それを念頭に置いた診療と迅速な対応が重要である.