2013 年 42 巻 1 号 p. 42-45
開心術後の非閉塞性腸管虚血(NOMI)は予後不良の稀な疾患である.その救命例の報告はあるが,その後の経過についてはほとんど知られていない.今回大動脈弁置換術(AVR)後のNOMIに対して小腸大量切除を行い救命し得た症例を経験したが,短腸症候群となった術後経過はけっして良好ではなかった.症例は79歳,男性.大動脈弁狭窄症に対しAVRを施行した.術後14日の腹部単純CTにて小腸壁に腸管壁内気腫像を認めたため,腸管壊死と診断し緊急開腹術を行った.広範囲に非連続性の黒色に変色した小腸を認め,小腸大量切除が行われた.病理学的所見では切除切片内の動脈は開存しており血栓は散在しているのみで動脈塞栓症ではなくNOMIであったと考えられた.その後の経過は一時的に社会復帰も可能となったが,尿路感染や急性胆嚢炎からの敗血症性ショックや中心静脈ポート感染による抜去を繰り返した.初回手術退院後死亡に至るまでの25カ月のうち入院治療を要した期間は14カ月であり,カンジダ敗血症,肝不全にてAVR後2年4カ月に死亡した.たとえNOMIに対して救命できたとしても,短腸症候群となった場合の経過は免疫,栄養面で問題が生じることを知っておくべきである.NOMIは特異的な症状や血液検査所見を有さないため,開心術後の血液検査や腹部所見の異常を見逃さず,NOMIの診断・治療を適切かつ早急に行うことが肝要と思われた.