抄録
症例は48歳男性.38歳時に大動脈縮窄症に対して左鎖骨下動脈-下行大動脈バイパス術を施行された.この4年後より縮窄部中枢側および末梢側に大動脈瘤を発症し,術後10年目に中枢側は最大径60 mm,末梢側は47 mmとなり,部分弓部および下行大動脈人工血管置換術(左鎖骨下動脈再建)を施行した.胸骨を横断する拡大左開胸法を用い,胸腔経由上行大動脈送血,右心房脱血で深低体温体外循環を確立し,循環停止を併用した.術前上下肢圧較差は40 mmHgであったが,術後の圧較差は10 mmHgに改善した.縮窄部は器質化した血栓により完全に閉塞しており,この結果バイパス単独による中枢側大動脈の除圧が不十分であり,同部の瘤化に関与していると考えられた.縮窄部が高度な場合,非解剖学的バイパス術後の血流変化により,縮窄部は血栓閉塞する可能性があり,これを機とする動脈瘤形成の可能性を示唆する症例であった.成人期大動脈縮窄症には,解剖学的根治術が推奨される.