抄録
【背景】2011年の日本透析医学会からの現況報告によると,透析患者数は年々増加しており,長期透析患者の増加,透析導入年齢の高齢化を認めている.したがって慢性透析を有する弁膜症手術は増加していくことが予想される.しかし慢性透析と弁膜症手術には人工弁選択を始めさまざまな問題がある.【目的】当科における慢性透析患者に対する弁膜症手術の成績を明らかにし,人工弁の選択および今後の問題点を検討した.【対象・方法】2001年1月から2011年6月までに慢性透析患者の弁置換術施行症例29例(再手術症例3例を含む)を対象とした.平均年齢は67.3±9.3歳,男性17例(65%),平均透析期間は7.9±6.4年であった.腎不全の原因疾患は慢性糸球体腎炎8例(31%),腎硬化症8例(31%),糖尿病性腎症3例(12%)であった.【結果】院内死亡を2例(7.7%)に認め,腸管虚血,心不全による多臓器不全であった.全体でのフォローアップ中の死亡は12例(46%)に認めており,5年生存率は30.6%と諸家の報告どおり不良であったが,透析導入時からの5年生存率は87.1%と2010年の日本透析医学会の報告(60%)と比較すると良好であった.手術時年齢は生体弁使用症例が機械弁使用症例と比較して有意に高齢であったが(p=0.02),術後生存率は有意差を認めなかった(p=0.75).弁関連合併症回避率は5年で機械弁27.5%,生体弁23.4%で有意差を認めなかった(p=0.9).脳出血を機械弁において3例認め,また人工弁劣化による弁機能不全(SVD)を生体弁において1例認めた.【結語】慢性透析患者に対する弁膜症手術成績は5年生存率が30.6%と諸家の報告と同様不良であったが,透析開始時からの生存率で検討すると(5年生存率:87.1%)とけっして不良ではなかった.また人工弁間での生存率に有意差を認めず,生体弁では早期劣化による再手術の危険性もあるが,弁関連合併症回避率で有意差を認めなかったことより,個々の症例に応じて人工弁は選択されるべきであると考えられた.