日本心臓血管外科学会雑誌
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総説
細胞レベルからみた外科的心筋保護法の現況と次世代への展望
丸山 雄二David J Chambers別所 竜蔵藤井 正大仁科 大新田 隆落 雅美
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2014 年 43 巻 5 号 p. 239-253

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抄録

高カリウムを用いた脱分極型心筋保護液は確立された心筋保護法である.しかしながら,高カリウム自体が虚血中に細胞内カルシウム負荷をもたらし心筋障害をきたすという問題があることも知られており,今後より優れた心筋保護法の開発が期待されている.高カリウムを用いない非脱分極型心筋保護液について,(1)急速な心停止,(2)心筋保護効果,(3)可逆性,(4)毒性という観点から,おのおのの心筋保護液の特徴を検討したが,いずれもまだ確立したものとはいいがたい.そのなかでも,高マグネシウム心筋保護液,エスモロール心筋保護液は,高カリウム心筋保護液を凌駕する心筋保護効果をもち,可逆性,毒性という点でも問題がなく,今後さらなる臨床応用が期待される.また内因性心筋保護効果を誘導する手段として,“ischemic preconditioning”と“ischemic postconditioning”という概念が注目されている.しかしながら,心臓手術におけるこれらの付加的心筋保護効果は確立されておらず,いずれも複数回の大動脈遮断による脳塞栓症というリスクを伴うため,すべての心臓手術に適用するには難しいかもしれない.一方,虚血前または再灌流時に薬剤を使用する“pharmacological preconditioning”と“pharmacological postconditioning”は,複数回の大動脈遮断を必要としない簡便な方法であり,今後心臓手術への適用が期待される.

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