2015 年 44 巻 1 号 p. 53-55
[目的]鈍的外傷に伴う大動脈損傷は,その発症起点から他の合併症を伴うことも多く,スムーズで適切な治療戦略が重要となる.当院で経験した鈍的大動脈損傷の救命例をもとに診断・手術時期・術式の妥当性につき検討した.[対象]2006年1月からの8年間に当院で経験した鈍的大動脈損傷の救命例5例を対象とした.男性3例,女性2例,年齢は57~70歳(平均64.2歳),Injury Severity Score(ISS)は13~25(平均17.2)であった.[治療]当院の治療方針は,まず初期治療を行いバイタルの安定化に努め,同時に診断を進める.バイタルの安定化を得られない場合は緊急手術となるが,得られた場合はダメージコントロール後の待機的手術としている.5例中3例は大動脈からの明らかな出血が認められたため救命のための緊急手術を行い,うち2例は解剖学的適応からステントグラフトを用いた.他の2例は初期診断で肋骨骨折片による胸部下行大動脈損傷,腰椎骨折片による腹部大動脈損傷が示唆されたが,初期治療でバイタルの安定が得られたため,ダメージコントールを行った後,ADL向上に先立ち待機的に骨折片除去と大動脈損傷部修復手術を行った.[結果]全例合併症なく経過し,術後9~32日(平均18日)で退院した.[結語]鈍的大動脈損傷はきわめて致命率の高い疾患であるが,緊急ステントグラフト術やダメージコントロールからの待機手術を選択する等,迅速な診断の基に病態に応じた治療を行うことが,成績向上に寄与すると考えられた.