抄録
[背景]広範型急性肺塞栓症は致死的疾患であり,特に心停止症例の死亡率は非常に高い.これらは血栓溶解療法により治療されることが多いが効果に限界があり,積極的な治療による成績向上が必要である.われわれは広範型急性肺塞栓症に対し積極的に肺動脈血栓除去術を行ってきた.そこで今回われわれの治療成績を検討した.[方法]手術適応は,広範型急性肺塞栓症で心停止を来たしECMOを導入した症例やショックが遷延した症例,血栓溶解療法禁忌症例,右心系に浮遊血栓を認める症例とした.ただし,低酸素脳症合併や慢性血栓塞栓性肺高血圧症の急性増悪が否定できない症例,血栓溶解薬がすでに投与された症例は肺動脈血栓除去術の適応外とした.遷延するショックに対しては術前にECMOを導入した.肺動脈血栓除去術は人工心肺,心停止下に両側肺動脈を切開しすべての血栓を直視下に摘出した.またすべての症例でIVCフィルターを留置した.[結果]2011年1月から2014年12月までに8例に対して肺動脈血栓除去術を施行した.女性4例,平均年齢57歳.1例は亜広範型であったが右心系に浮遊血栓を認めたため手術適応とした.心停止例は3例あり,全例ECMOが導入された.遷延するショック症例4例中3例にECMOを導入した.ECMOを導入しなかった1例は,麻酔導入・挿管後心停止となり術後意識障害が遷延した.全例が人工心肺を直接離脱した.大動脈遮断時間,人工心肺時間はそれぞれ47分,114分(中央値)であった.5例に閉胸後IVCフィルター(Neuhaus Protect)を留置したが,閉胸中に経食道エコーにて右心系血栓を指摘された症例を経験したため,後半3例は人工心肺離脱直後右心耳から直接IVCフィルター(Günther Tulip)を留置した.病院死亡は1例で,心蘇生のため導入したECMOに伴うカテーテル穿刺関連合併症(後腹膜出血)で失った.術後合併症として肺炎:5例,気管切開:2例,心房細動:3例,心膜切開を必要とした心嚢液貯留:1例を認めた.術後肺高血圧が遺残した症例はなかった.術後に意識障害が遷延した症例は2.4カ月後に死亡した.その他の症例では術後経過観察期間(中央値)13.1カ月において,血栓塞栓症および出血性合併症を認めなかった.[結語]肺動脈血栓除去術は広範型急性肺塞栓症において有効な治療法であった.循環動態を安定化し,心肺停止による低酸素脳症を防ぐために術前ECMOを導入,直視下にすべての血栓を摘出するために両側肺動脈切開,再発予防のためにIVCフィルターを留置することが重要である.