抄録
症例は37歳女性.発熱・意識障害を主訴に近医受診.乳癌術後化学療法中でポート感染を起因とする僧帽弁位感染性心内膜炎と診断され,当院紹介となった.来院時失語と右片麻痺を認めるも従命可能であった.CTにて左中大脳動脈領域の梗塞と両側前後頭葉の出血を認め,心臓超音波検査にて僧帽弁に可動性を伴う径20 mmの疣贅,高度の僧帽弁閉鎖不全症・三尖弁閉鎖不全症を認めた.著明な肺うっ血に加えてDICも呈しており,救命目的に緊急手術を施行した.僧帽弁は疣贅により高度に破壊されていたために生体弁による弁置換術を施行した.術後感染・心不全徴候は著明に改善し,第一病日に人工呼吸を離脱した.術後脳膿瘍を併発したために意識レベルが悪化したが迅速な膿瘍ドレナージ術により神経症状は回復した.術後13カ月の現在,患者は,社会復帰に向けて言語聴覚士の下でリハビリ通院中である.重症脳合併症を伴う感染性心内膜炎に対する外科的治療の時期決定には難渋することが多いが,今回われわれの外科治療奏功例を若干の文献的考察を加えて報告する.