2016 年 45 巻 3 号 p. 121-125
症例は80歳,男性.食思不振,1カ月前から続く体重減少を主訴に当院を受診した.血液検査で炎症反応の上昇を認め,血液培養でStreptococcus oralisが検出された.心臓超音波検査で大動脈弁閉鎖不全症および大動脈弁に疣贅の付着を認め,感染性心内膜炎と診断した.抗生剤治療を行っていたが,本人が入院治療の継続を拒否したため,退院となった.退院10日後,就寝中に突然の胸痛を認め,再度当院を受診した.心電図でV1-4にST上昇を認め,急性心筋梗塞の診断で緊急冠動脈造影検査を施行した.左前下行枝#7の完全閉塞を認め,カテーテル吸引で疣贅様構造物を認めた.病理所見上も疣贅に矛盾しない所見であり,感染性心内膜炎の疣贅による急性心筋梗塞と診断し,入院後心不全を改善した後に,大動脈弁置換術,冠動脈バイパス術(Ao-SVG-#7),三尖弁輪縫縮術を施行した.感染性心内膜炎が疣贅の飛散により塞栓症を引き起こすことはよく知られているが,そのなかでも冠動脈塞栓は稀である.今回われわれは,感染性心内膜炎の経過中に疣贅の塞栓による急性心筋梗塞を発症した症例を1例経験したので,文献的考察を加えて報告する.