2016 年 45 巻 6 号 p. 284-289
急性A型大動脈解離(AAAD)に対する上行置換術後,中枢側上行大動脈仮性瘤および末梢側弓部-下行大動脈解離拡大のため,再手術を要した1例を経験したので報告する.症例は47歳,男性.AAAD発症に対し,初回手術で上行置換術および大動脈弁置換術を行った.術後3カ月目に人工血管中枢側上行大動脈仮性瘤形成および末梢側弓部-下行解離性大動脈拡大を認めたため,再手術で大動脈基部から弓部-下行大動脈までの一期的広範囲人工血管置換術を施行した.手術では,胸骨再正中切開に左前側方開胸を追加するDoor open法にてアプローチを行った.大動脈基部再建後はcomposite graftより順行性持続的血液冠灌流を行い,高カリウム濃度心筋保護液による心停止とせず末梢側弓部-下行大動脈置換術を行った.長時間の体外循環時間を要したが心筋虚血時間は短縮でき,術後心機能は良好に保持されていた.術後1年半後の現在,特に問題なく外来通院中である.本症例のような大動脈基部から下行大動脈までの広範囲胸部大動脈置換手術では,Door open法は有用なアプローチ法であった.また順行性持続的血液冠灌流により高カリウム濃度心筋保護液による心停止とせず弓部-下行大動脈置換術が可能であり,心筋虚血時間の延長を回避しうる有用な心筋保護手段であった.