2017 年 46 巻 5 号 p. 231-234
症例は70歳女性.33歳時に僧帽弁狭窄症(MS)を指摘され,44歳時に経皮経静脈的僧帽弁交連切開術を施行され,以後,外来にて経過観察されていた.その後,三尖弁閉鎖不全症(TR)を認め,薬物療法を施行されていたが,徐々にTRの増悪,肺高血圧症の進行を認めたため,手術目的に当科紹介となった.術前精査では,心エコーでmoderate-severe MS, severe TRを認め,CTでは巨大右房・高度石灰化を伴う左房を認め,うっ血肝を呈していた.心電図では房室接合部性補充収縮を認め,HR 53回/分と徐脈であった.また脳梗塞の既往があった.以上より,予定術式は僧帽弁置換術,三尖弁形成術,心房縫縮術,左心耳閉鎖術,心外膜ペースメーカー植込み術とした.手術は仰臥位,胸骨正中切開アプローチとし,まずは右側左房切開を試みた.しかし,左房後壁の著明な石灰化のために切開・内腔観察に難渋した.まず左心耳後壁の石灰化の除去を行い閉鎖した.その後の僧帽弁の展開も困難であり,左房後壁の石灰化内膜を広範囲に除去し,僧帽弁を観察した.僧帽弁は両交連の癒合,腱索の短縮を認め,Epic 29 mmを縫着し左房を閉鎖した.三尖弁は,著明な弁輪拡大のため自己心膜を用いた前尖の延長を施行した後,Physio tricuspid 26 mmを縫着し,右房を閉鎖した.最後に心外膜リードを縫着した.今回のような左房の高度石灰化を伴う症例は稀であり,若干の考察を加え報告する.