日本心臓血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1883-4108
Print ISSN : 0285-1474
ISSN-L : 0285-1474
46 巻, 5 号
選択された号の論文の21件中1~21を表示しています
巻頭言
原著
  • 1.  JCVSD の理念と歴史
    髙本 眞一, 本村 昇, 宮田 裕章, 月原 弘之
    2017 年46 巻5 号 p. 187-190
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2017/09/27
    ジャーナル フリー

    日本心臓血管外科手術データベース(JCVSD)は2000年にアメリカ胸部外科医会(STS)の援助を受けて,創立された.STSデータベースのソフトウエアを日本語に訳し,同じ定義の項目を使って,大学病院医療情報ネットワーク(UMIN)というWebを使用して成人のデータの入力を2001年から行った.2008年には先天性心疾患手術の入力が始まり,また,成人のデータベースのリスクモデルから術前予想死亡率が計算され始め,それはJapanSCOREと名付けられた.2011年には専門医制度とJCVSDが協働して,専門医認定のための手術の審査を行うことになり,2012年には本邦におけるすべての心臓外科の手術がJCVSDに登録されるようになった.JCVSDのデータを使用したこの論文シリーズにより本邦の心臓血管外科手術の質の改善と患者のために医療安全がさらに向上することを期待している.

  • 2. 先天性心疾患手術
    平田 康隆, 平原 憲道, 村上 新, 本村 昇, 宮田 裕章, 髙本 眞一
    2017 年46 巻5 号 p. 191-194
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2017/09/27
    ジャーナル フリー

    [目的]日本心臓血管手術データベース(JCVSD)先天性部門は2008年から登録を開始し,現在,参加施設数約121施設となって全国の施設をほぼカバーしている.今回,われわれはこのデータを用い,主な術式の死亡率と術後合併症の検討を行った.[方法]JCVSDから2013年および2014年の先天性心疾患手術データを抽出した.同一手術で複数の術式が選択されている場合は,JCVSDの定義に従い第一術式を最も関連のある術式として選択した.抽出された術式のうち,頻度の高い20術式についての死亡率および主要な合併症の検討を行った.[結果]ASD repair,VSD repairの死亡率は1%未満,TOF repair, Complete AVSD repair,Bidirectional Glenn,TCPCの死亡率は2%未満であり,良好な成績であった.死亡率10%以上のものとしてはNorwood procedure,TAPVC repairなどがあった.合併症としては,術後予定外の再手術は死亡率の高い術式で多い傾向にあった.また,永続的にペースメーカー植込を必要とした不整脈,乳び胸,創部感染(深部・縦隔炎),横隔神経麻痺,退院時に継続する神経学的異常について術式ごとの発生率が示された.[結論]JCVSDの分析により,各術式の死亡率ならびに合併症の頻度を把握することができた.今後,これらを利用し,よりよいデータベースの確立および臨床へのフィードバックにつなげていくことができると考えられる.

  • 3. 単独冠動脈バイパス手術
    齋藤 綾, 平原 憲道, 本村 昇, 宮田 裕章, 髙本 眞一
    2017 年46 巻5 号 p. 195-198
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2017/09/27
    ジャーナル フリー

    2013年および2014年の日本心臓血管外科手術データベース登録の単独冠動脈バイパス術症例について術前状態および術後短期成績,グラフト選択の現況,前下行枝血行再建へのグラフト選択(年齢別)について分析した.単独冠動脈バイパス術については54.7%が人工心肺非使用で行われ,動脈グラフトの使用頻度も高く,前下行枝に対してはLITAが74.3%,RITAが15.6%に使用された.手術死亡率(または30-day operative mortality)は待機的手術では2.0%,緊急手術では8.2%,全体では3.0%であり,待機的手術のうちONCABは3.0%,OPCABは1.1%であった.

  • 4. 心臓弁膜症手術
    中野 清治, 平原 憲道, 本村 昇, 宮田 裕章, 髙本 眞一
    2017 年46 巻5 号 p. 199-204
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2017/09/27
    ジャーナル フリー

    [目的]本邦における,弁位別,年代別の手術死亡率,治療法の選択,特に機械弁,生体弁の使用比率を明確にするとともに,術前合併症の影響に関しても検討を加える.[方法]日本心臓血管外科手術データベース(JCVSD)より,2013年,2014年の弁膜症のデータを使用した.大動脈弁位(A群),僧帽弁位(M群),三尖弁位(T群)にわけ,A群では機械弁,生体弁の2群にM群,T群では機械弁,生体弁,弁形成の3群に分け,年代別の検索を行った.二弁置換(AVR+MVR)例は除外した.また,慢性透析,肝機能障害,心房粗細動例においても同様の解析を行った.[結果]A群では機械弁の比率は23.1%であった.M群では66.6%に弁形成が行われ弁置換群では機械弁の比率は40.5%であった.T群では弁置換は全体の3.0%にすぎず,そのうち機械弁は11.4%であった.慢性透析患者では非透析例に比べ,概して機械弁の比率が高く,AVRで35.0%,MVR 51.4%であった.手術死亡率はA群では全体で4.3%,慢性透析 11.7%,肝機能障害 15.8%,心房粗細動 5.6%,M群では全体で4.0%,慢性透析 14.4%,肝障害 11.2%,心房粗細動 4.1%であった.[結語]本邦における,弁位別,年代別の機械弁,生体弁の使用比率が明確となった.また,慢性透析患者では機械弁の比率が非透析患者に比べ高かった.

  • 5. 胸部大動脈手術
    志水 秀行, 平原 憲道, 本村 昇, 宮田 裕章, 髙本 眞一
    2017 年46 巻5 号 p. 205-211
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2017/09/27
    ジャーナル フリー

    [背景]大動脈疾患に対する治療は人工血管置換術(OAR)が基本であるが,ステントグラフト治療(TEVAR)やハイブリッド手術(HAR)の登場で新しい治療体系が構築されつつある.本邦の胸部大動脈手術の現状を日本心臓血管外科手術データベース(JCVSD)から分析した.[方法]日本心臓血管外科手術データベース(JCVSD)から抽出した2013~2014年の胸部・胸腹部大動脈手術データをJapanSCORE(JS)で階層化(5%未満,5~10%,10~15%,15%以上)し,疾患別(急性解離,慢性解離,非解離・非破裂,非解離・破裂),術式別(OAR,HAR,TEVAR)に手術数,手術死亡率を調査した.[結果]全体の症例数は30,271例(死亡率5.9%)であった.OARの施行率は全体で73.2%(基部98.3%,上行97.4%,基部~弓部95.5%,弓部81.7%,下行34.2%,胸腹部64.4%)であった.胸腹部では高いJSほどOAR施行率が低下した(JS<5%,5%≦JS<10%,10%≦JS<15%,15%≦でOAR施行率は80.4%,67.6%,58.8%,55.7%)が,他部位ではJSにかかわらずOAR施行率がほぼ一定であった.OARの手術死亡率はJSで良好に反映されていたが,TEVAR,HARではJSより低値であった.[結論]大動脈疾患の治療選択は疾患や部位によって大きく異なっており,必ずしもリスクスコアに基づいていなかった.OARにおいてJSは実死亡率をよく反映していた.

症例報告
[先天性疾患]
  • 松永 章吾, 藤田 智, 松尾 倫, 深江 宏治
    2017 年46 巻5 号 p. 212-216
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2017/09/27
    ジャーナル フリー

    極低出生体重児に対する心臓手術の報告例は少なく,品胎に関しても同様である.今回われわれは,品胎かつ極低出生体重の完全大血管転位症に対して段階的に手術を施行し良好な経過を得た症例を経験した.母体は妊娠成立後,二絨毛膜二羊膜性品胎の診断で妊娠25週より管理入院となった.患児は子宮内発育停滞により,在胎33週5日,帝王切開で出生した.出生体重は1,336 gで,出生後に完全大血管転位症II型と診断された.一期的心内修復は耐術不能と判断し,日齢27にバルーン心房中隔裂開術を行った後,日齢29に両側肺動脈絞扼術を行った.その後,徐々に低酸素血症が進行したため日齢69に再度バルーン心房中隔裂開術を行い,日齢73に左側肺動脈絞扼解除術を行った.低酸素血症の一時的な改善は得られたものの強心剤投与および人工呼吸器管理を要する状況が継続し,日齢110,1,838 gで大血管転換手術を行った.術後は問題なく経過し,術後66日目に自宅退院した.小児心臓外科分野では全身状態や低体重などの問題により一期的な根治が困難な場合,段階的治療戦略を選択することとなる.しかしながら低体重児に関しては,段階的な姑息手術や最終的な根治手術の介入時期に関して明確な根拠に乏しく,現状として個々の症例ごとに治療戦略が計画される.本症例では品胎の極低出生体重児に対して治療方針の転換を余儀なくされながらも良好な経過が得られた.文献的考察を含めて報告する.

[成人心臓]
  • 齋藤 正博, 川島 大, 前場 覚, 小野 稔
    2017 年46 巻5 号 p. 217-221
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2017/09/27
    ジャーナル フリー

    巨大な左冠動脈瘤を合併した左右冠動脈肺動脈瘻の手術例を経験したので報告する.症例は84歳女性.胸部単純X線検査で異常陰影を指摘され受診された.造影CT検査,冠動脈造影検査の結果,約30 mmの冠動脈瘤と左右冠動脈肺動脈瘻を認めた.左冠動脈の損傷を可及的に回避しながら,冠動脈瘤切除かつ冠動脈肺動脈瘻完全摘除術を施行した.瘤破裂は回避され,心筋虚血の合併症を認めなかった.

  • 阿久澤 聡, 石神 直之, 鈴木 一周
    2017 年46 巻5 号 p. 222-225
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2017/09/27
    ジャーナル フリー

    冠動脈起始異常は稀であるが,心臓弁手術時においては冠動脈損傷や術中,術後の心筋虚血に起因する合併症を危惧する必要がある.右冠動脈起始異常を有する大動脈弁狭窄症に対し,大動脈弁置換術時に冠動脈バイパス術を同時施行し良好な経過を認めた症例を経験した.症例は72歳女性.労作時の息切れと動悸を自覚するようになり大動脈弁狭窄症と診断された.術前精査にて右冠動脈の起始異常が確認された.右冠動脈は左冠動脈洞より起始しており,大動脈基部と肺動脈主幹部の大血管間を走行し同部での狭窄を認めた.手術は大動脈弁置換術に大伏在静脈を用いた右冠動脈バイパスを同時施行した.体外循環開始前にバイパス末梢吻合を行い,心停止中はバイパスグラフトを利用して心筋保護液を追加注入した.術後経過は順調であり,バイパスグラフトの開存が確認された.

  • 峠 幸志, 重久 喜哉
    2017 年46 巻5 号 p. 226-230
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2017/09/27
    ジャーナル フリー

    症例は61歳,男性,急性心筋梗塞の診断で当院循環器内科にて経皮的冠動脈形成術(Percutaneous Coronary Intervention ; PCI)を施行され,入院加療,経過観察中に心臓超音波検査において左室流出路に入院時には認めていなかった可動性塊状エコーを認めた.抗凝固療法を行った後に待機的に摘出術を計画,慢性心房細動もあり,経過中に胸部症状の再燃を認めたため,心停止体外循環下に腫瘍摘出とあわせて冠動脈バイパス,full maze手術を施行した.大動脈弁ごしに左室流出路を検索,右冠尖と無冠尖の交連の弁下流出路側,膜性中隔に小豆大の可動性腫瘤を認め,これを心内膜付着部位より切除摘出した.病理組織検査で摘出標本は多数の石灰化結節や血性浸出液の混在した線維素沈着よりなる線維性コラーゲン性組織で悪性所見は認めなかった.無形性腫瘍性病変(calcified amorphous tumor ; CAT)は変性や一部慢性炎症を伴う無形性な線維性組織を背景とした石灰化結節よりなる非腫瘍性心臓病変であり,末期腎不全患者の僧帽弁輪高度石灰化症例(mitral annular calcification ; MAC)にしばしばみられる.可動性があるものについては“swinging calcified amorphous tumor”と称され塞栓症の高リスク群であるとの見解もあり左室流出路(Left Ventricular Outflow Tract ; LVOT)に発生するものに関しては非定型的であり報告は稀である.

  • 吉田 有里, 木村 文昭, 石川 成津矢, 北原 大翔, 紙谷 寛之
    2017 年46 巻5 号 p. 231-234
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2017/09/27
    ジャーナル フリー

    症例は70歳女性.33歳時に僧帽弁狭窄症(MS)を指摘され,44歳時に経皮経静脈的僧帽弁交連切開術を施行され,以後,外来にて経過観察されていた.その後,三尖弁閉鎖不全症(TR)を認め,薬物療法を施行されていたが,徐々にTRの増悪,肺高血圧症の進行を認めたため,手術目的に当科紹介となった.術前精査では,心エコーでmoderate-severe MS, severe TRを認め,CTでは巨大右房・高度石灰化を伴う左房を認め,うっ血肝を呈していた.心電図では房室接合部性補充収縮を認め,HR 53回/分と徐脈であった.また脳梗塞の既往があった.以上より,予定術式は僧帽弁置換術,三尖弁形成術,心房縫縮術,左心耳閉鎖術,心外膜ペースメーカー植込み術とした.手術は仰臥位,胸骨正中切開アプローチとし,まずは右側左房切開を試みた.しかし,左房後壁の著明な石灰化のために切開・内腔観察に難渋した.まず左心耳後壁の石灰化の除去を行い閉鎖した.その後の僧帽弁の展開も困難であり,左房後壁の石灰化内膜を広範囲に除去し,僧帽弁を観察した.僧帽弁は両交連の癒合,腱索の短縮を認め,Epic 29 mmを縫着し左房を閉鎖した.三尖弁は,著明な弁輪拡大のため自己心膜を用いた前尖の延長を施行した後,Physio tricuspid 26 mmを縫着し,右房を閉鎖した.最後に心外膜リードを縫着した.今回のような左房の高度石灰化を伴う症例は稀であり,若干の考察を加え報告する.

  • 高橋 大輔, 椎谷 紀彦, 山下 克司, 鷲山 直己, 坂上 直子, 山中 憲, 夏目 佳代子
    2017 年46 巻5 号 p. 235-238
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2017/09/27
    ジャーナル フリー

    胸骨翻転術後の心臓手術の報告は少ない.胸骨翻転術後の胸骨正中切開では肋骨-肋軟骨接合部が屈曲したり,術後胸骨翻転部の動揺により胸郭動揺を来し呼吸不全が危惧される.非マルファン症候群の腹直筋有茎性胸骨翻転術後,36年目に僧帽弁形成術を施行した1例を経験したので報告する.58歳,男性.22歳時漏斗胸に対する腹直筋有茎性胸骨翻転術の既往あり.その際右開胸しドレーン留置されている.前尖広範逸脱の重症僧帽弁閉鎖不全症による心不全で手術適応として当科紹介となった.複雑な弁形成術に対応できること,右胸腔の癒着を危惧し手術は胸骨正中切開でのアプローチを選択した.通常どおり切開可能で,胸骨がしっかりしており,また肋骨-肋軟骨接合部の動揺がないことに注意し,通常どおりの開胸器を使用した.心嚢内の癒着は認めなかった.右側左房アプローチで僧帽弁の視野は良好であった.僧帽弁形成術,左房メイズを施行した.胸郭の動揺がないため通常どおり閉胸し手術を終えた.術直後より胸帯を着用したが,同日抜管,胸郭動揺や呼吸不全なく術後16日で軽快退院した.心エコー検査で僧帽弁逆流は制御され,CTで胸骨の治癒に問題を認めなかった.胸骨翻転術が腹直筋有茎性の場合,非マルファン症候群では通常の胸骨正中切開で安全に治療が可能であった.

  • 梅野 惟史, 迫 秀則, 髙山 哲志, 森田 雅人, 田中 秀幸, 岡 敬二, 宮本 伸二
    2017 年46 巻5 号 p. 239-242
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2017/09/27
    ジャーナル フリー

    左室内血栓症は,急性心筋梗塞後もしくは心筋症や重症弁膜症などによる低左心機能症例に合併するが,可動性血栓の場合や塞栓症の既往がある場合,さらに心機能が改善傾向にある場合などは積極的外科手術の適応となる.今回,急性心筋梗塞後に左室心尖部血栓を生じた1例と,うっ血性心不全治療中に左室心尖部血栓を生じた1例に対して,右第4肋間から,完全内視鏡下に経左房・経僧帽弁アプローチで外科的血栓除去術を行い,良好な結果を得たので報告する.

  • 藤井 政彦, 茂木 健司, 櫻井 学, 野村 亜南, 坂田 朋基, 高原 善治
    2017 年46 巻5 号 p. 243-246
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2017/09/27
    ジャーナル フリー

    症例は79歳男性.2年半前に大動脈弁狭窄症で大動脈弁置換術(CEP magna ease 21 mm®)を施行し,その2カ月後に洞不全症候群で恒久的ペースメーカ植え込み術を施行後,人工弁感染の疑いとうっ血性心不全の診断で入院し抗菌薬の投与を開始した.しかし,経過中発熱が持続し経胸壁心エコー図で僧帽弁後尖に20 mm大の疣贅を認めたため難治性感染性心内膜炎の診断で,緊急手術を施行した.術中所見では,石灰化した弁輪部に膿瘍を形成しており,一部自壊し,そこから疣贅が伸びていた.可能な限り感染巣を郭清し,ウシ心嚢膜パッチで弁輪再建後に僧帽弁置換術(CEP magna mitral ease® 23 mm)を施行した.人工弁周囲逆流予防のために人工弁にウシ心嚢膜カラーを付けて弁輪補強を行った.手術から1年半後の現在も感染の再燃や弁周囲逆流なく経過は良好である.

  • 寺園 和哉, 上野 隆幸, 豊川 建二, 福元 祥浩, 山下 正文, 森山 由紀則
    2017 年46 巻5 号 p. 247-250
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2017/09/27
    ジャーナル フリー

    症例は69歳女性で,1973年(26歳時)に他院にてリウマチ性僧帽弁狭窄症に対してBjörk-Shiley弁を用いた僧帽弁置換術が施行された.当院循環器科で経過観察をはじめた2012年にはすでに,中等度の僧帽弁閉鎖不全症(MR)が出現していたが,今回急激に心不全が進行しショック状態に陥ったので,緊急手術を施行した.術中所見ではBjörk-Shiley弁の傾斜円盤ディスクは弁座より完全に外れ消失していた.Björk-Shiley弁,特にDelrin製の弁は耐久性に問題があり,ディスクの摩耗による人工弁機能不全の報告が散見されるが,ディスクの完全逸脱の報告は稀である.今回,術後43年目にディスク破損により重度僧帽弁閉鎖不全症をきたした1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

[大血管]
  • 近藤 太一, 牧田 哲, 星野 丈二, 丸山 俊之
    2017 年46 巻5 号 p. 251-254
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2017/09/27
    ジャーナル フリー

    大動脈気管支瘻は稀な疾患だが,外科的治療をしなければ100%死に至る予後不良の疾患である.外科的治療も従来の人工血管置換術は,肺との癒着や,人工心肺を要するなど侵襲が大きく問題となる.近年,大動脈気管支瘻に対するステントグラフト手術の有効性が報告されている.今回われわれは喀血を主訴に受診されたアクセスルート不良の大動脈気管支瘻の患者に対し,緊急で胸部ステントグラフト内挿術を行った.長期間の喫煙歴をを有する高齢者であったが,合併症なく術後経過は良好である.大動脈気管支瘻や感染の再発のリスクの考慮が必要だが,ハイリスク患者を救命できたので報告する.

  • 酒井 麻里, 名倉 里織, 青木 正哉, 横山 茂樹, 武内 克憲, 土居 寿男, 山下 昭雄, 深原 一晃, 芳村 直樹
    2017 年46 巻5 号 p. 255-259
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2017/09/27
    ジャーナル フリー

    梅毒性大動脈炎(syphilitic aortitis : SA)は現在では遭遇することが稀な疾患である.今回われわれはSAに起因する大動脈弁輪拡張症(annuloaortic ectasia : AAE),大動脈弁閉鎖不全症(aortic regurgitation : AR)に右冠動脈(right coronary artery : RCA)入口部狭窄を併発した症例に対し,modified Bentall手術および右内胸動脈を使用した冠動脈バイパス術を施行し良好な成績を得たので報告する.症例は48歳,男性.労作時易疲労感,夜間呼吸困難のため救急搬送され,精査の結果Sellers III度のAR, AAEを指摘された.その際の血清学的検査でTP抗体定量28.4 S/CO,RPR定量>20 R.Uと梅毒の現行感染が明らかとなった.CT検査では大動脈基部55 mm,上行大動脈60 mmと拡大しており,冠動脈入口部周囲に石灰化を認めた.また,冠動脈造影ではRCAの入口部評価は困難であったが,CTにてRCA入口部狭窄を疑わせる所見を認めたため,あらかじめ右内胸動脈を剥離する方針で手術に臨んだ.術中所見では大動脈内膜は不整が強く大動脈全体に変性が及んでおり,RCA入口部は線維性の内膜肥厚により入口部がほぼ閉塞していた.手術は機械弁によるmodified Bentall手術および右内胸動脈を使用した冠動脈バイパス術を施行した.病理学的所見はSAに一致し,組織抽出によるDNA検査から梅毒トレポネーマのDNAが検出された.術後経過は良好であった.現在術後2年経過するが,遠隔期合併症を認めていない.

  • 織田 良正, 片山 雄二, 古賀 秀剛, 古賀 清和
    2017 年46 巻5 号 p. 260-263
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2017/09/27
    ジャーナル フリー

    遅発性胸骨骨髄炎に起因した感染性仮性大動脈瘤の1例を経験したので報告する.症例は79歳,男性.大動脈弁閉鎖不全症(III°),冠動脈硬化症,洞不全症候群(type 1)に対して,当科で大動脈弁置換術(Aortic Valve Replacement : AVR),冠動脈バイパス術(Coronary Artery Bypass Grafting : CABG),永久ペースメーカー留置術(Permanent Pace Maker Implantation : PPMI)の複合手術を施行し,術後27日目に自宅退院となった.術後50日目に胸骨骨髄炎を発症し,再入院となったが,再入院6日目に聴診にて第2肋間胸骨右縁に新たな収縮期雑音(Levin IV/VI)を認め,経胸壁心エコーでも大動脈基部から左前方へ異常なflowを認めた.造影CTを施行したところ,再入院時のCTでは認めなかった仮性大動脈瘤が上行大動脈に認められた.遅発性胸骨骨髄炎に起因した感染性仮性大動脈瘤と診断し,再入院8日目に仮性動脈瘤切除術,上行大動脈人工血管置換術を施行した.術中所見で仮性大動脈瘤はAVRの際の上行大動脈吻合部から形成されており,瘤の一部は右室流出路に穿破していた.本症例では新たに聴取した心雑音とそれにより施行したベッドサイドでの心エコーが確定診断の契機となった.

  • 渡邊 達也, 田村 健太郎, 平岡 有努, 都津川 敏範, 近沢 元太, 吉鷹 秀範, 坂口 太一
    2017 年46 巻5 号 p. 264-266
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2017/09/27
    ジャーナル フリー

    症例は61歳,男性.徐々に増悪する胸部違和感のため前医を受診し,胸部単純CTで肺動脈瘤を認めたため当院へ紹介受診した.当院で施行した造影CTで経70 mmの肺動脈瘤を認めた.経胸壁および経食道心臓超音波検査では先天性心疾患の合併を認めず,右心カテーテル検査でも肺高血圧症は認めなかった.血液検査では梅毒陽性であったが,明らかな臨床症状は認めていなかった.径70 mmと巨大な肺動脈瘤で胸部症状が出現しており,手術適応と判断し,肺動脈瘤切除人工血管置換術を施行した.切除した肺動脈瘤の病理所見では特異的な炎症細胞浸潤は認めず3層構造の維持された真性瘤であった.先天性心奇形や肺高血圧も認めておらず,病理所見も真性瘤であったため特発性の肺動脈瘤と考えられた.

  • 森田 雅文, 吉井 康欣, 東 修平, 真野 翔
    2017 年46 巻5 号 p. 267-271
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2017/09/27
    ジャーナル フリー

    今回われわれは,破裂性腹部大動脈瘤をAmplatzer Vascular Plugを破裂口に塞栓した上で,ステントグラフト内挿入術(EVAR)を施行する,Plug Attachment Technique(PAT法)で治療し得たので報告する.症例は84歳女性.パチンコ店にてパチンコに興じていた際,突然の意識消失により転倒され,当院に救急搬送される.来院時はショックバイタルで意識障害を伴っており,腹部超音波にて腹部大動脈瘤の破裂の診断にて大動脈造影CTを施行した.大動脈造影CTでは90 mm大の破裂性腹部大動脈瘤(Fitzgerald III型)を認めた.ただちに緊急手術を施行した.Amplatzer Vascular Plugを破裂口に塞栓した上でEVARで治療した.総手術時間は158分であった.術後最大膀胱内圧は18 mmHgであり,腹部急性コンパートメント症候群等合併症を認めることなく術後経過は良好で,術後30日目に独歩退院となる.破裂性腹部大動脈瘤に対する緊急EVARの有用性については,本邦においても十分認識されるようになった.EVARの即効性は,緊急を要する腹部大動脈瘤の破裂という病態には最大限の効果が期待できる.その一方で,急性コンパートメント症候群の合併,type 2エンドリークによるEVAR後の破裂口を通じての出血の持続等,EVAR後に開腹手術を追加せざるを得ない病態,救命できない病態も同時に経験する.今回われわれの施行した,Plug Attachment Technique(PAT法)は,破裂性腹部大動脈瘤に対するEVARの効果をさらに確実にする有用な方法である可能性があり,報告する.

U-40 Surgical Skill Sharing―今更聞けない心臓血管外科基本手技―
feedback
Top