2018 年 47 巻 4 号 p. 162-165
患者は68歳男性.2012年に生体弁での僧帽弁置換術(Mitral valve replacement以下,MVR),三尖弁形成術施行後であった.39.0度の高熱にて救急外来を受診し,敗血症性ショックを呈しており,心エコー検査にて人工弁の弁尖に嵌頓する形で最大径20 mmの疣贅を認めた.疣贅は巨大で複数あり,浮遊性であった.また,高度な人工弁逆流も認めた.血液培養よりCandida grablataが検出されており,真菌感染による人工弁感染性心内膜炎(Prosthetic valve endocarditis以下,PVE)の可能性が高く,緊急手術を施行した.人工弁には巨大な疣贅が複数付着しており,弁尖は破壊され,陥頓に近い状態であった.前回の人工弁を摘出,再僧帽弁置換術を施行し手術を終了した.術後はアムホテリシンBリポソームにて抗生剤加療を行った.その後,感染兆候の再燃は認めず,術後50日目に独歩退院となった.本患者の疣贅は巨大であり嵌頓に近い状態であったが,弁尖の破壊が高度であったことが嵌頓死を防いだと考えた.このような巨大疣贅にて嵌頓死を起こさずに独歩退院できた報告は文献を検索する限りいまだになく,また,真菌性であることも考慮するとかなり稀な症例であると考える.真菌性心内膜炎(以下,真菌性IE)の場合,自己弁か人工弁かを問わず,最適な治療は,感染組織のデブリードマンと徹底した病巣の除去,そして弁置換術もしくは弁形成術と長期の抗真菌剤を組み合わせた治療であると考え,われわれは積極的に早期に手術を施行する方針である.